態度が悪い
授業を真面目に受けていない生徒でもクラス替え試験となれば本気で取り組む。
結果次第ではクラス落ちもあり得るし、落ちれば確実に家から叱責される。
クラスをひとつでも上げるようにと厳命されている生徒は結果が出るまで眠れない日々を過ごす。
特別クラスの生徒は気にしていないが通常クラスの生徒は勉強に専念していた。
「この公式は代入できないから、代わりにこっちを使う」
寮ではマリエルが遅くまで勉強しており、見回りの教師に就寝を促されることもあった。
試験が始まる寸前までマリエルは教科書とにらめっこしていた。
そこまで真剣に取り組んでいるのはマリエルくらいで他は寝ていたり編み物をしたりといつもと同じように過ごしている。
「うぅ、半分も解けなかった」
机に伏せて終わったテストの結果に嘆いていた。
ほとんどゼロの状態から半分も解けたのなら上出来だったが、目的はシークレットルートのキャラと会うことを考えると絶望的だった。
その半分が正解しているとも限らないがマリエルは正解していると信じている。
「くよくよしても仕方ないわよね。こうなったらなにがなんでも会わないと」
マリエルの言葉を正確に理解していないが教室から出てくれるのなら理由は何でも良かった。
切り替えたマリエルが意気揚々と向かった先は中庭だった。
「確か中庭で園遊会の設営を手伝っているところをシークレットルートのキャラたちが見て好感度を上げるのよね」
イベントとなるほど大きな出来事でないから見逃されがちだが意外と重要な役割を持っていた。
設営と言っても生徒がすることは無いからマリエルが声をかけたところで邪魔扱いをされるだけで手伝えることは何もない。
「何か手伝いましょうか?」
「あぁ? 邪魔だ邪魔だ」
「えっ、ちょっと」
「どけ、どけ! 邪魔だ」
当たり前のように受け入れられると思っていたマリエルは、ふて腐れて中庭の端のベンチにたどり着いた。
ベンチには忘れ物の本があり、マリエルは手に取る。
「これって」
人が見ればただの劇の台本だが、マリエルには重要なアイテムになる。
「今度の園遊会の劇の台本よね。これがあれば練習出来るから問題無いわよね」
この台本は自分のために用意されたもので、誰か持ち主がいるとは思ってもいない。
設営の手伝いをすることは頭から抜け落ちてしまっており、マリエルは台本を持って寮に帰った。
「確か乱入するのは王子役の台詞のところよね」
劇の最初はヒロインと悪役令嬢のやり取りだけで王子は一切出てこない。
ヒロインが悪役令嬢に苛められたとして泣いていても慰めるシーンすら無い。
「王子が婚約破棄を告げるまで出てこないって盛り上がりに欠けるじゃない。誰よ、こんな台本書いたの」
婚約破棄を告げて、悪役令嬢が断罪されてヒロインと結ばれて新婚旅行に出るという終わりだ。
見せ場が少ないと機嫌を損ねるマリエルだが、イベントなら仕方ないと割りきった。
台詞としては少なく覚えるのに時間はかからなかった。
「王子役が確か貴族の令嬢がやってたんだっけ?」
乱入して見事に演じきることで好感度が上がるイベントだが、大切なのは攻略対象者であって、その周りの人物についての記憶は曖昧だ。
熱心に書いたメモにもフーリオンの好感度のために必要だと書かれているだけだ。
「まぁ当日になったら分かるから大丈夫よね」
試験が終われば次の試験のために勉強するとならないのがマリエルだ。
荷物と一緒に持ってきた小説を読み耽る。
見回りの教師に就寝を促されて、ようやく寝るという生活を繰り返したマリエルは、毎日のように遅刻していた。
学習態度の評価が定期的に保護者へ届くことを失念していたマリエルは、父から叱責の手紙を受け取った。
「忘れてた」
内容は学習態度が悪いようなら退学させるというものだった。
学校から退学勧告は数える程しか無いが社交界で後ろ指を指されることになるから家は必死だ。
「ゲームなら生徒会補佐になってるから授業に遅れても不問にされるのに」
編入して間もない生徒を補佐であっても採用することはないというのをマリエルは思い付かなかった。
ここはゲームの通りに進むと信じていた。
「ルシーダに会わないといけないけど、まずは園遊会ね」
退学を避けるためにマリエルは遅刻せずに授業に出た。
勉強に熱が入っているかと言えば別のことに集中しているから態度そのものは変わっていない。
「ねぇ、園遊会って王様たちも来るのよね?」
「当日にならないと分かりませんわ。陛下はお忙しい身であらせられるから」
「どうしてよ! 王族主宰なんでしょ!」
「王族は陛下だけではございませんわ。あまり程度の低いことを言わないでくださいな」
クラス替えの発表があるのは園遊会が終わってからになるからマリエルは未だに問題児クラスのままだ。
イベントを発生させるために攻略対象者に会いたいマリエルは機嫌が悪かった。
授業を抜け出して攻略対象者を探したいが退学にされたくないから我慢していた。




