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配役を探す

 いくら婚約者同士でも互いの寮の部屋に入ることは無いがアンネワークにとって芝居のためなら何処でも入る。

そのひたむきなところが可愛いとフーリオンは止めないから周りが苦労していた。

冒険ものに嵌った頃には木登りをしようとして手を擦り剥くという怪我をした。

そのときはフーリオンから怒られていたが、怪我が治ったころに再び挑戦しようとしていたから懲りてはいない。


「アンネ」


「なぁに? ふー」


「その袖だと台本が持ちにくいだろ?」


「うん、持ちにくい」


「おいで」


 五年前のフーリオンは今よりも身長が低かったと言っても今のアンネワークよりは高かった。

指先まで隠れている袖で台本を持つから何度も落としていた。

袖を折ってピンで止めて落ちて来ないようにする。


「持ちやすくなったよ! ふー、すごい」


「良かったな」


「うん」


 アンネワークの練習する姿を見せたくないというフーリオンのわがままから女子寮の第三応接室が専用の練習部屋になった。

いくら王族でも権力をひけらかすことは好ましくないが、アンネワークに関してだけは譲らないことを知っているから黙認している。


「婚約破棄を申し付ける!」


「まぁ理由を伺ってもよろしくて?」


 女役をすることも王子の仕事の合間に登場人物の科白を覚えることもアンネワークのためなら苦ではない。


「それは私の愛するマルグレッドを不当に虐めたからだ」


「何かの間違いでございます。もう一度、よくお調べになってくださいませ」


 食堂ではマルグレッドという名前が言えずにマルギュレッジョになっていたが、ちゃんと言えて今では身振り手振りも加わっている。

かなり進歩していた。


「次期王である私が間違うはずなかろう! 不敬だぞ!」


「申し訳ございません。ですが身に覚えのないことでございます」


「白を切る気か!? この不届き者めが! マルグレッドが証言している! お前に虐められ辛い思いをしたと! 衛兵、衛兵!・・・・・・あれ?」


 熱の入った演技をしていたアンネワークは我に返った。

この科白のあとにト書では衛兵が出てきて悪役令嬢を拘束するのだが、ここには二人しかいない。

拘束してくれる役の人はいない。


「ふー、大変! 衛兵がいないよ、あっ! 王様もいない。これじゃ練習できないよ」


「それは困ったな。夕飯を食べてから衛兵役と王様役を探すか?」


「うん! そう言えばお腹空いたね」


 アンネワークの手を握って食堂に向かう。

前は腕を組んでエスコートしていたが何もないところで転ぶという芸当をアンネワークはするから転ばないためにも手を握るしかなかった。


「フーリオン、遅かったな」


「練習が一段落するまで続けていたからな」


「あっ! ウォルトル様! 王様役してください」


 左手はフーリオンに繋がれているが右手には台本が握られていた。

ウォルトルはフーリオンのご学友の一人でサーガングス侯爵家の嫡男だ。

騎士団長を父に持つから本来なら卒業と同時に騎士団に入るのを前倒ししたという経緯を持つ。


「俺で良いの?」


「はい!」


「威厳たっぷりに演じないといけないね」


 ウォルトルも演劇部に所属することになった。

最初は父親に演劇という体を動かさない部に所属することに難色を示されたが、フーリオンが所属したことで首を縦に振るしかなかった。


「兄上、ウォルトル、アンネワーク嬢」


「オーリエン」


「オーリエン様」


「オーリエン様、ご機嫌麗しく誠にお喜び申し上げます」


「アンネワーク嬢、その疎外感を感じる挨拶を止めて欲しいのだけど無理だろうね」


「オーリエン様はこの国の第三王子でいらっしゃいます。たかが伯爵家の令嬢がお言葉を交わすことなど夢のまた夢のようなものでございます。わたくしなどはどうぞ捨て置きくださいますようお願い申し上げます」


 婚約者であるフーリオンやウォルトルに話しかけるときとは違い完全に淑女としての礼をして言葉遣いも丁寧なものになっていた。

自分がオーリエンの兄の婚約者という立場は頭から完全に抜け落ちていた。

出会ったときからアンネワークは、この態度を崩さないから訂正することを諦めた。


「昼間の話を聞いたよ、兄上」


「婚約破棄か」


「それで何か配役が余っているなら僕もやりたいんだけど」


「ちょうど科白はないが衛兵役があるぞ」


「面白そうだね」


 オーリエンはアンネワークと同い年でフーリオンとは腹違いの兄弟だ。

第一王子のニーリアンと第三王子のオーリエンは王妃の子どもだ。

第二王子のフーリオンは第一側妃の子どもだ。


「そろそろ食堂が混むから行くか」


「そうだな、アンネ」


 食堂で転ぶと悲惨なことになるから手を繋ぐ。

持っていた台本はウォルトルが預かっている。

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