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迷子になる

 二週間前には持っていなかった入学証明書を携えてマリエルは学校の門の前に立った。

きちんと申請しておけば馬車で校舎まで行くことが出来る。

ワンズワールもきちんと申請をしていたが、マリエルが降りてしまったのだ。


「さぁ仕切り直しよ」


 門前払いをした門番にもう一度、声をかけた。


「編入生のマリエルよ」


「この道を真っ直ぐ行ったところの校舎だ」


「これが入学証明書よ」


「あぁ? 入学証明書を持ってるのは当たり前だからな。別に確認することじゃない」


「はぁ? ちょっと待ってよ。前は入学証明書を持ってないと入れられないって言ってたじゃない!」


 当たり前だとして今回は確認もしない門番に腹を立ててマリエルは突っかかった。

マリエルの言う言葉に門番は眉を寄せて不可解な表情をする。


「前っていつのことだ?」


「二週間前よ! もう忘れたの? 物忘れ激しいんじゃない?」


「物忘れが激しいのはお前だ。俺は一週間前に配置換えで来たばかりだ。お貴族様になったのなら二週間前に会った奴の顔くらい覚えておけよ」


「えっ?」


「この道を真っ直ぐだ。間違っても曲がるんじゃねぇぞ、お貴族様」


 前の門番もマリエルには冷たかったが、代わってもマリエルに冷たかった。

これはマリエルの態度によるものだが、本人は自分に原因があるとは思っていなかった。


「何よ! 態度が最悪だって言いつけてやるんだから」


 悔し紛れに捨てセリフを吐いてマリエルはトランクを持って道なりに歩き出した。

少し歩いたところに噴水があり休憩することにした。


「えっと、確か門番イベントがあるのよね。間違った道を教えられて平民校舎に着いちゃうのよね」


 マリエルは書き留めた手帳を見返してイベントの内容を確認した。

このイベントは特に選択肢があるわけではない強制イベントもしくは共通イベントと呼ばれるものだからマリエルも細かいところまでは記憶していなかった。


「先にイベントが起きたりしてるけど、まだルートは確定していないはず! これからよ」


 教えられた通りに真っ直ぐ進み校舎に辿り着いた。

そこは平民が通うには豪華すぎるくらいに装飾されており、馬車が何台も停まっていて見ただけで貴族用校舎だというのが分かった。

その豪華さに圧倒されているのではなく、門番イベントが発生しなかったことにマリエルは唖然としていた。


「どっどうしてよ。間違った道を教えるはずでしょ。それとも裏読みして道を曲がらないといけなかった? とにかく平民校舎に行かないと、話はそれからだわ」


 歩いて来た道を戻って曲がれる道を探す。

曲がるなという忠告があったのだから見落とすことはないと思っていたが、噴水のところまで戻ってしまった。


「噴水でのイベントは最後の方だから、違うし」


 編入というくらいだから人影もなく、校舎から離れているから授業を休んで散策している生徒もいない。

荷物を持って歩き続けている足は限界も近かった。


「曲がる道ってどこよ」


 辺りを見渡して辛うじて人が通れそうなくらいに整備された道を見つけた。


「こんな道、間違えようが無いじゃない」


 見つけたのだから進むだけだとしてトランクを抱え直した。

ところどころに枝が伸びていて頬に傷を作りながら進む。

装飾もほとんどされていなく殺風景な校舎だったが、学ぶという面では合理的だった。


「ふふふ、ここで初めて副会長のルシーダに会うのよね。返答の仕方ではルート確定の重要なイベントだから気を引き締めないと」


 校舎の入り口の階段に腰を下ろして迎えが来るのを待つことにした。

本当は来たことを知らせようとしたが扉には鍵がかかっており呼び出しのベルもないから諦めた。


「本当は間違って平民用校舎に来たことを知らせないといけないんだけど誰もいないから仕方ないよね」


 ずっと歩いていたことで疲れも出てそのまま膝を抱えるようにして眠ってしまった。

そのまま座っていれば出入りした生徒に気づかれそうなものだがマリエルがいたのは校舎の裏側で普段は誰も通らないから気づかれなかった。


「・・・っは」


 眠りから覚めて辺りを見渡すと夕暮れになっており気温も下がっていた。

迎えが来ていないことよりも自分がいるところも分からなくなりトランクを抱えて闇雲に走った。


「ここはどこよ。どうして迎えが来ないのよ」


 門番は正しい道を教えているし一度は貴族用校舎にたどり着いている。

勝手に平民用校舎に来ていることを知っている者はいないし探すと言っても広大な敷地であるから暗くなれば、まず見つからない。


「いたっ、イベントはどうしたのよ」


 生徒が出入りすることのない森に迷い込み鋭い葉で手を切った。

制服も破けてしまっており貴族だとは思えないような風貌になっていた。


「あっ、明かりがある。迎えに来なかったこと文句言ってやるんだから」


 夜になれば校舎から人はいなくなるから扉を叩いても応える声はない。

それでも他の場所を知らないから叩き続けるしか手立てはなかった。

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