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本気を出す

 大人しく部屋に戻ったが、本当に反省している訳ではない。

このままだと本当に修道院に入れられてしまうという危機感から従っただけだ。


「どうしよう。このままだと学校に行けなくなっちゃう」


「取り止めではなく休学なのですからきちんと学べば学校には時期を見て入れてくださると思いますけどね」


「時期を見てじゃだめなのよ。今通うのが重要なの」


「まるで未来でも見えてる言い草ですね。旦那様のご判断は正しいと思いますよ。今のお嬢様を学校に通わせても退学でしょうから」


 部屋の中をうろつき着替えもせずにこの状況を打破する方法を性懲りもなく考えていた。

そんな様子を呆れた目で見ながらも慣れた手つきでお茶を入れる。

執事見習いという身分ではあるがマリエルの奇行についていける者が少ないので着替え以外の全ての世話をするはめになっていた。


「退学?」


「当たり前でしょう。平民ならともかく貴族は領地を治める手腕が必要です。その能力が無い者を学校に置いていては学校の評判に関わります。学校の求める習熟度に達さない者は退学となります」


「どうしてよ。学校でしょ?」


「学校に通うのは貴族に産まれた者の義務ではありますが、権利ではありません。退学となれば貴族として出来が悪いとなり家の評価にも繋がります」


 学校は貴族として領地を治めるだけの能力があると示す場であり、新しい人脈や取引のある家が有能であるかどうかを判断する場だった。

平民はより良い職場に就くために通っており義務ではなく権利であるが、その分卒業するのは難しい。


「学校に行きたいのなら家庭教師たちの授業を真面目に受けることですね。学校に通えるだけの頭脳があると判断されれば旦那様も考え直してくださるかもしれません」


「それよ! そうよ。そんなことに思い至らないなんてバカよね」


「お嬢様がバカでいらっしゃるのは今に始まったことではないですが真面目に勉強してくださるのなら何も言いません」


「いちいち一言多いのよ。明日からばりばり勉強するわよ。そしてお父様に認めていただくんだから」


 勉強してくれるのなら動機が不純でも良くて、人が違ってから何度か家庭教師が教えたが理解力が無いのか覚える気が無いのか分からないが進みが遅かった。

あの調子だと編入日までに合格点と言えるところまで終えることはできないし、三年経っても難しいのではないかと思っていた。

学校に通うのは義務ではあるが最初から学力に問題があると判断されれば国に申請すれば免除される。

学校も不出来な者がいるという評判は欲しくないので利害の一致をしていた。


「ウォン、教科書を用意しておいて」


「埃を払って虫食いが無いか確認してからお持ちします」


「だからいちいち一言多いのよ」


 今まで書き留めたゲームの中のルートのイベントとはどれも違うが何としてでも編入日に学校に行くことが先決だとして割り切った。

イベントには時期が重要なものやそれまでの攻略対象者との好感度が成功の鍵を握るものもある。

仲良くなっていないとイベントが発生しても成功率が格段に落ちる。

それで何度も目的とは違うルートへ進むことになりリセットボタンを押した。


「今のところリセットボタンもないから失敗できないのよ。とにかく学校に行ったら誰かに会わないと」


「お嬢様、教科書置いときますよ。あとノートとペンも」


「・・・そうだ。今まで起きたイベントも書いといた方が良いわね。駐在所イベントはロチャードかオーリエンのルートだけど二人とも来なかったからどちらのルートに確定したか分からないし」


「家の中なら妄想をいくら口にしても良いですけど外では謹んでくださいね」


「妄想じゃないわよ。現実よ!」


「それを妄想というんですよ。俺もそろそろ上がらせて貰いますね。お嬢様付きになってから睡眠時間が少ないので」


「うぅっ」


 振り回している自覚はあるから反論せずにウォンを見送る。

この世界がゲームの世界であると確信しているのはマリエルだけで、ゲームの中のストーリーを口にしてもウォンは呆れながらも聞いている。

無理に黙らせて取り返しのつかないところで吹聴されるよりも目の届く範囲で好きにさせようというウォンの思惑の結果だった。


「何よ。確かに振り回しているけどさ」


 罪悪感というものが少しだけ芽生えたが長く悩むということはできない性分だった。

両頬を叩くと何か気合いを入れて立ち上がった。


「見てなさい。あっと驚く男を捕まえて見返してやるんだから。まずは今日までのことを整理しないとね」


 ここ最近は何かを一心不乱に書くのは落ち着いていたと思っていた使用人一同はまた復活したと溜め息を吐いた。

今までと違うのは勉強も同じくらい熱を入れて取り組むので進み具合が段違いに上がっていた。

何か心を入れ替えているような姿に涙を流す者もいた。

動機というか原動力を知っているウォンは夢を壊さないために黙っていることにした。


「考えたら編入してすぐに園遊会イベントがあるのよね。さすがに科白は覚えてないけど何とかなるでしょ」


 アンネワークが主役をやろうと練習を頑張っている園遊会だ。

そこで起きるイベントはフーリオンのルートに入れるかどうかを決めるための重要なイベントだった。

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