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さいど  作者: 夜風しみる
3/4

3.無意識の意識

”彼女”と初めて話してから1週間程が経った。

学校での”彼女”は至って普段と変わらない。

気にしてるのは”僕”だけなのだろう。


窓の外に見える青空は嫌という程澄んでいて、その先がみえてきそうだった。

退屈な授業、蒸し暑い教室、喚く蝉の声。

何一つ変わらなく揺るがない普段の夏だった。

しかし何故なのか。

ノートを取る手が思い通り動かない。

黒板を追う目がどこかもどかしい。

間違いなく何かが変化している。

きっかけは絶対に”彼女”なんだ。


授業終了のチャイムが鳴ると同時に教室が騒がしくなる。

生徒たちは各々購買に向かうなりグループで机を囲むなどして昼休みを過ごす。

和気藹々と会話を弾ませるクラスメートたち。

そこには”僕”の居場所などあるはずもない。

否、無かった。

”彼女” 初瀬 凪はあの日以来昼休みに”僕”の机に座らなくなった。

”彼女”は教室の後ろの方にある自分の席で仲間と共に過ごす様になった。

それでも此処に”僕”の居場所などあってはならない。

”僕”は財布をポケットに突っ込み席を後にする。


”僕”の通う城鷺台高等学校は2年前に新校舎の建築が行われ、現在は旧校舎と新校舎が共存している状態にある。

新校舎に各クラスが配置されており旧校舎は一部の部活動などが使用するに留まっている。

昼休みには余程意識の高い部活動の生徒ぐらいしかこの旧校舎には訪れないため静かで心地よい場所だ。

缶コーヒーを一口含んで旧校舎3階の踊り場を抜けた角にあるいつもの場所に腰を下ろす。

サンドイッチの包装を開く音が廊下に反響する。

時計は1時を示していて昼休みはまだ30分ほどある。

サンドイッチを食べコーヒーを飲み干すと何だか眠気が襲ってきた。

「五限は‥‥休むか」

出所のわからない倦怠感とそれになすがままにされる自分。

良くないことは分かっている。

しかし瞼は重みを増し意識は次第に薄れていった。


「あの〜〜、起きてますか〜〜?」

なんだ‥‥、朝か‥‥。

「部活でここ使うんで退いてもらえますか?」

‥‥‥。しまった。

どうやら放課後まで寝続けてしまったらしい。

慌てて腕時計を見ると 4時25分。

「ごめん。退くよ」

缶コーヒーとゴミを急いで持ちその場を後にする。

もう帰りのHRは終わっているはず。

面倒だが担任に顔だけ見せて帰らねば。

重い足を引きづり新校舎へと向かう。


新校舎に入ると今まさに帰宅しようと玄関で靴を履き替える生徒が目に入った。

恐らく今教室に行ってもクラスメートに不審がられるだけだ。

玄関横のゴミ箱にゴミを捨て時間を潰すことにした。


5時。そろそろ大丈夫だろう。

階段を上がる度に学年の違う生徒を見かける。

1年2年と年を越すたびに学年は上がる。

それは別に大したことではない。

でも”僕”には別の意味でのカウントダウンがある。

踊り場からは少しオレンジがかった空が顔を出し”僕”の背中を黄昏に染める。

その時。

目の前に書類を抱えた初瀬が現れた。

一瞬の静寂と沈黙。

”僕”はきっと無意識に目を背けてしまい、初瀬の顔を見ることができない。

時間にして5秒かそこら、白けた時が周りに流れていた。

その沈黙を先に破ったのは、初瀬だった。

「保健室でも行ってたの?HR、終わっちゃったよ」

当たり前の、その場に合わせられた会話。

あの時と変わらない”彼女”の投げかけだった。

「‥‥先生、まだ教室にいたりする?」

必死の返答。答えにはなっていない、でもその場をやり過ごす為の返答。

「あ‥‥、うん。多分まだいると思うよ」

「ありがとう」

「‥‥。」

終わった。手すりを引き寄せながら重い体を前へ前へと引っ張る。

とにかくこの場から、消えたかった。

初瀬とすれ違い教室へ向かう。

「あのさ‥‥、私も教室行っても良い?忘れ物思い出しちゃった」

後ろから初瀬の声がかかる。

「‥‥え、いや、うん」

意図の知れない質問。

後ろを付いてくる初瀬から少しでも離れたく早足になってしまう。

教室までが長く感じる。

ドサッ。

振り返ると初瀬が抱えていた書類を落としていた。

書類を掻き集める”彼女”の目が振り向いた”僕”の目と、合った。







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