1.普遍と不変
夜風しみる ともうします。
何かを感じ取ることの出来る作品をめざして。
よろしくお願いします。
「ねぇねぇ、そういえば‥‥」
いつもと変わりなく”僕”と”彼女”の会話は唐突に幕を開ける。
放課後の教室、オレンジの光がカーテンをすり抜ける。
掃除され綺麗になった、僕たちしかいない教室。
校庭からは部活動に勤しむ生徒達の声が、廊下からは時折上履きが床と擦れる音が。
「1番最近後悔した事って何?」
目の前の”彼女”は校庭を眺めながら問いを投げかける。
これもいつもと変わりない。”彼女”はいつだってふわふわとして、これっぽっちも”僕”に興味などないくせに、纏わり付いて絡みついて離さない。
昨日も今日も一昨日も、きっと両手の数じゃ足りないほど”僕”の放課後は ”彼女”と共にあった。
「私はね、昨日の朝の‥‥」
本のページをめくる。
幾度となく読んできた物語。
文字なんて読んじゃいない。
本を読むことで自分は今取り込み中だと周りに見せてるだけ。
きっと”彼女”の目にもこの所作は映っているはずなのに。
「やっぱりここぞ!って時に行動しないと損しちゃうね」
”彼女”はそう締め、語り終えた。
ページをめくる時の乾いた音だけが響く。
頬を撫でる六月の風は少し冷たく心地よい。
「あっ、ゴールだよ、10番の子やっぱり上手いね」
”彼女”は校庭を見つめ呟く。
「部活動とかやってみれば?」
六月の風が彼らの充実感を届けに来る。
黒板の上の掛け時計は6時を示している。
”僕”は本を閉じ机の上に置いた。
「マネージャーって楽しいのかな?」
オレンジに染まる惚けた”彼女”を横目に物を鞄に詰め席を立つ。
「帰る時さ、窓閉めといて」
”彼女”にそう告げ、教室のドアに手を掛ける。
「うん。それより、今日は?今日は何か変わった?」
これもいつもと変わりない。
あの日から”僕”と”彼女”の1日の終わりはこの問いが締め括る。
「相変わらず、じゃあ」
「そっか、また明日ね」
下駄箱でスニーカーに履き替えると下校時刻を知らせる放送が鳴る。
きっと”彼女”は未だあの教室にいる。
夕日に照らされた教室から呑気に校庭を眺めてる。
変わらない。
およそ1年前の6月、”僕”と”彼女”があの約束を交わしてから何一つ変わっちゃいない。
”僕”の考えも”彼女”の意思も、何一つ。