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勇者と魔王は月光の下で踊り狂う  作者: みのまむし
序章 勇者と魔王と紅月と
1/59

其之零 いつかどこかで誰かの会話

順番を変更しました。



 いつかどこかの図書室。

 ある男子高校生と女子高校生の会話。


 放課後の図書室。

 時間帯は帰宅部の生徒が居残るには遅いし、部活動に熱を入れる生徒が帰るにはまだ早い。

 そんな中途半端な、すきまの時間。

 窓の外に目を向ければ、夕焼けに染まるグラウンドは地区予選目前の野球部が青春の汗を流しているけど、帰宅部の僕はここで、そんな彼らを僕と彼女の二人で見ていた。


 因みに彼女と言ったが女性という意味の彼女で、恋人という意味での彼女ではない。

 産まれた歳=彼女いない歴の僕を舐めてはいけない。

 僕のスペックは平均以下だ。身長は170cmもないのに体重は80キロを優に超える。最近は視力も悪くなり、顔に着けられた分厚い黒縁眼鏡なしじゃネットすら出来やしない。


 そんな僕の前にいる彼女は一年生の後輩だ。腹部の脂肪がクラスメイトより多くて、汗っかきの僕がこうやって女の子と会話するのも珍しい。

 実はこの子が僕の童貞をこじらせた妄想の産物で、僕は一人誰も居ない図書室で虚空に向かってブツブツ語りかけているのじゃないかと疑いたくなる。


 もしそれが当たっていたら、僕の知る中で鬱シナリオ、鬱ENDの極致たる『さよな●をおしえて』や『かってに改●』みたいなすべて妄想、現実に戻れば精神病院ENDは勘弁してほしい所だ。

 そしてそんな僕の不安なんて知りもせず、後輩の女の子は気さくに僕に話しかける。



「先輩は、異世界に行って特殊な力を手に入れられるとしたら、どんな能力『ギフト』が欲しいですか?」



 いきなり異世界の話題かよ。まぁ、彼女とこうして放課後に会話するようになって、それなりに時間が経つ。良く見たら彼女の手元には最近はやりのラノベが数冊、見え隠れていた。相変わらず影響されやすい子だ。

 もちろん、僕の答えは決まっている。洗脳系のスキルを強く希望する。異世界のお姉さんを口説いて、イチャイチャのハーレムを作り上げる以外にない。



「むぅ。先輩、女の子の前なんだから、少しは気を使って下さい。それにそれってお話の中では悪役ポジションの能力ですよ?」



 いいんだよ、せめて妄想の中だけは自分が凄いって思いたいじゃないか。ちやほやされたいじゃないのさ。どうせ異世界なんてないし、在ったとしても渡れる訳がないんだからさ。それに君は女の子のだから、理解できないかも知れないけど、男の子も無敵のヒーロー願望に加えて、性欲って厄介なもんを抱えて生きてるんだよ。



「むぅ~、女の子だってお姫様願望とか、素適な王子様といちゃいちゃしたいと思いますよ? 私が言いたいのはそうじゃなくて。

見た事のない世界に夢を見る事の何がいけないんですか? もしかしたら本当に魔法はあるかもしれない。そんな風に空想を楽しまないのは、私の知る先輩らしくありませんね」



 そうかな。でも異世界ねぇ、みんな異世界好きだねぇ。そんなに剣と魔法でドンパチの血みどろズパズパしたいのかねぇ?

本当に地獄を見たいのなら、メキシコの麻薬カルテルか中東の紛争地帯でも全身に札束貼りつけて散歩してみればいいんだ。翌日まで生きられる猛者なんて、この国のモヤシ達に存在するもんか。



「じゃあ異世界が嫌いですか?」



 いや、もちろん大好物だけど。やっぱりエルフの女の子だよね。人間の女の子はもう見飽きたし、やっぱりエルフさんと恋してみたい。あ、別にネコミミの獣人でもいいけど。

ケモミミは、ベレー帽の漫画の神様が『火●鳥』で当時から書いてたから、異世界に限った事ではないしなぁ。

 まぁ、でも獣人、機械、アンドロイド、天使、エルフ、最近だとモンスター娘っ子に、物の擬人化かぁ。次はどんな女の子が登場するのかなぁ。

本当にクリエイターの妄想力には頭が下がるよ。



「先輩先輩。先輩の中で異世界ファンタジーは女の子のラブコメなしで、存在しないのですか?ほら、異世界って言ったら、もっと夢とか冒険とか、ワクワクドキドキに目を向けましょうよ」



 そうだね〜、ドキドキかぁ。だけど僕のファンタジーバイブルである『●われた島』には異世界人なんて出てこないし、原作にお風呂のサービスカットもないよ。

 OVAのヒロインのディ●ドさんは痩せ型のすらりとした美人エルフさんだけど、キャラデザが光って本当に綺麗さんだったなぁ。


 ……それを踏まえると疑問だね。

『いつから最近の異世界はお風呂や着替えのサービスカットなしで存在できなくなってしまったんだ?』と。

 あれかね?シュレディンガーの猫みたいに、最近の異世界は僕らがお色気を観測する事によってようやく存在できるのか?



「先輩先輩、そこの『僕ら』に私を加えないで下さい。私はお色気なくても異世界モノちゃんと好きですから! それにしたって先輩の妄想は、さっきから亜人系の女の子のにしか向いてませんね?……目の前に女の子がいるのにまったく興味の欠片も無い事が分かりました。私としては喜ぶべきか悲しむべきか。むぅ、難しいところです」



 ん、何を悩んでるのか知らないけど駄目駄目。僕は三十まで童貞守って魔法使いにならないといけないんだから。三次元に目を向けている暇なんてないよ。



「先輩それ、私以外の女の子に言ったら一生口きいてくれなくなりますよ?」



 それに異世界異世界言ってるけど、それは向こうの世界がまともな……僕らと同じ知的生命体が存在すること前提だよね?



「というと?」



 ハリウッド映画の『ミス●』みたいに異世界と繋がって逆に凶暴な未知で醜悪な肉食の巨大昆虫生物みたいのが、逆にこちらに 側に攻めて浸食きたらどうするのさ?

 相手の異世界に攻め込むなら汚染なんてお構いなしで核の炎で焼き尽くせるけど、攻め込まれたらそうもいかない。

 放射能の怖さは原爆を二回も落とされて、原発事故が起こった国だからこそ、核攻撃なんて選択肢を安易に取るべきじゃないし。



「異世界からの攻撃ですかぁ。

なら戦わないといけないですよね。そうなると重火器で戦うのが真っ先に思い浮かびますが……。そこで疑問にぶち当たりますね。

『はたして異世界の生物相手に重火器は通用するのか?』

そこに一考の余地があると思うです。

 異世界の代表で巨大生物と言えばドラゴンさんですが、自衛隊の皆さんでドラゴンさんに勝てますかね?」



条件による、というのが本音だよねぇ。ドラゴンも作品によってスペックまちまちだし。



「みんなの破壊神アイドル、ゴジ●さんには毎シリーズ苦戦してるイメージがありますけど……ホントいつも大変ですね、自衛隊の皆さん」



 そうだよなぁ。もう数十年くらいあの怪獣と戦ってる自衛隊の皆さんにこれ以上敵を増やしたら過労死しちゃうしなぁ。……今更だけど、ドラゴンとゴジ●は別物だよね。



「?、それはモチロン、種族が違いますよね。破壊神は空飛びませんし」



 それもそうだけど……。『恐竜』と『怪獣』は別だよね。

 僕の考えだけど、日本ゴジ●は『怪獣』だけど、初代の『ハリウッドゴジ●』は馬鹿でかいただの恐竜なんだと思うんだ。


 魔法も使わないし空も飛ばない。

 核なんて使わなくてもミサイルで倒せる。


 ここに通常の『ドラゴン』も分類できる。空は飛ぶし火は吐くかも知れないけど結局は馬鹿でかいトカゲだ。

 人でも充分に対応できる。

 普通のドラゴンも空を飛ぶだけの『恐竜』だと思う。

 そんな恐竜なら苦戦するだろうけど多分倒せる。


 問題は日本のゴジ●とか、後は異世界で言う『エンシェントドラゴン』みたいな魔法使って人型になれる超生物達とか人の手に余るだろ?

 どちらも核喰らってもでも生きてそうな気がするし。



「なるほど、知恵を持つ魔法を使うドラゴンですか。

たしか『●われた島』のドラゴンは知恵はあれど魔法使わなかったですよね……。

知恵を持つ人型に慣れるドラゴンの走りってなんですかね、やっぱりその名の通り『ドラゴン●エスト』ですかね。あのボスは人型から変身してドラゴン化しますよね。……たしかさえやっぱり異世界と言えば魔法ですものね。燃え盛る炎系の攻撃魔法とか強そうですのもね」



 いや、確かに怖いけど。魔法の怖い所はそこじゃないか?

 確かに物理攻撃に類する地火水風魔法なら脅威だけど絶望じゃない。僕らの科学と言う名の武力で対抗可能だ。

 問題はもっと根源的な……。時を止める魔法とか心をいじくるとか年を取らせるとか知恵のある生物を対象とする根源的な魔法。


 ・時を止める。

 ・呪文を唱えるだけで相手を即死させる。

 ・相手の意識を自在に操る。

 ・目には見えない呪術系の呪い。


『精神魔法』と呼称するけどそれには重火器じゃ無理だろう。

 魔法は世界のその世界の定義によって変わるけど、薬と呪術を用いて心を操るのは魔法の根源だからね。


 そんな修羅の世界に、現代人の碌に鍛えていない、世界的に見て、がり勉君でモヤシのウチの国の人がいきなり異世界行ったって、『ギフト』なしでまともに戦えるもんか。


 『ギフト』無しで異世界行って生き残るなんて、ぼこすか殺し合ってた頃の戦国時代のバーサーカーじゃないと無理だろ……ってそれ『ドリフ●ーズ』か。


 つまりあのレベルの人間?じゃないと異世界行ったって役に立たないんじゃ、僕らじゃ瞬殺されるよね。それこそ『ギフト』貰うか、よっぽどの頭がないとね。異世界行く人ってニートや引きこもりが多いけどなんであんなに頭良くてケミュ力高いのに、家に引きこもっているのかいつも疑問なんだけどね。



「そうです?私は好きですよ?

一方通行で悪逆非道な中世レベル文明の現地住民を、なぜか異様に頭の良いやる事為す事すべて成功する主人公が手に入れたギフトで弱いモノイジメしていくTUEEEEなお話。」



 彼女も彼女で大分皮肉が聞いている。



「やっぱり異世界ファンタジーと言えば呪文ですかね〜。チチンプイプイ、アブラカタブラ、ヒラケゴマ。異世界と言えば魔法ありきですよね」



 僕の場合の呪文は『ロイムエッサイム、ロイムエッサイム。我は求め訴えたり』、なんて呪文を毎日ブツブツ唱えて、アニメの召喚の魔法陣をビデオ止めて、必死にノートに書き写して、そらでかけるようになるまで練習してたなぁ。



「あ~、知ってますぅ!水●しげる先生の代表作の一つですね?ね? っていうか、先輩ホントに何歳ですか!?」



 ふはははは!何を驚くんだい、後輩よ。再放送に決まっているじゃないか。まさか僕がリアルタイムで視聴してまだタイマー機能が付いていないビデオ録画の為にテレビの前で待機していたとでも?



「いえ。そこまでは言いませんけど。え~、でもその呪文ってあの有名な『血の流れより紅きもの』の呪文より更に前の時代ですよね?先輩、実はこの学校の図書館に取り憑いてる昭和時代の幽霊とかじゃないですよね?」



 僕としてはエルフさんとオークさんの一方通行の肉体的な恋愛とかの話の方が好きだけど。

 世界中のエルフさんの人権団体がクレーム入れて来そうで怖い。

 でも特に凄いのはオークさんの生殖能力だよね。

 生物の構造上、染色体の数が違えば子孫はできないはずなのにオークさんは人間どころか、エルフさんでもなんでも女型なら子供作れちゃうわけでしょ?



「まぁ確かにそうですね、二次創作の常識ですね」



 エルフさん激怒の嫌な常識だなぁ……。


 今更の生物の授業感覚で考察すると、人間の染色体数は四十六。

 それが異なる生物とは子どもは出来ない事になっている。

 チンパンジーの染色体数は四十八。

 後はあれ、オーガが鬼で、オークは豚だったか?だったよね。

 ブタの染色体数は三十八だけど、オークさん他の、エルフも、獣人も、子供が作れるって事はみんな四十六?


 いやいや、オークやオーガ、エルフとモフモフの獣人が、偶然に人間と同じとかありえないだろ。



「ならオークさんの『おたまじゃくし』は特別製ですか?

その理論で行けば染色体関係なく、雌型の生き物ならなんでも子供が作れる事になりませんかね?」



 なんだその『ハイブリッドおたまじゃくし』。生命の神秘ってレベルじゃないぞ。染色体数関係ないなら、豚でも牛でも馬でも猿でも、すべてのメスを妊娠させてオークを産ませるって事か?

 そんなんオークさん強すぎだろ、人間の数百倍のペースで増えるぞ。ホントにそんな超生物なら異世界で一番貴重なのはオークさんの遺伝子情報かも知れない。オークさん一匹に何十億、何百億出す製薬企業がある事だろう。



「先輩先輩!ゴブリンさんも忘れないで下さいね。お話によってはゴブリンさんも人間と生殖可能ですから!」



 ……うん、無理だな。そんな世界があったら現実的に考えて。

どんなに人間が凄い魔法とか持ってても、中世レベルの文明と武器が土台じゃ結局数で押されて、人間絶滅するぞ。

 確かにそんな世界じゃ、剣の一振りでオークさん達100匹でも撃破できる『英霊』クラスの人間がポコポコいないと勝てないな。



「コホン。……あなた達、ここは何処だかわかる?図書室なのよ?もう少し静かにできないのかしら。というか、もう少し会話を選びなさい」



 僕ら以外無人だと思っていた図書室に、もう一人。女子生徒の影があった事に今更気が付いた。真面目そうな声の注意が僕らに向けられる。



「うにゅう……怒られちゃいましたね」



 ああ、君のせいでね。どうするんだよ。あの人、ウチのクラスの委員長だぞ。明日からどんな顔して会えばいいんだよ。あの人敵に回すなんて僕のクラスでの立場がますます無くなる。



「うに?先輩のお友達ですか?」



 いや、友達どころか話した事も無いけど。……美貌でと秀才で名高いクラス委員長とカースト底辺僕じゃあね。あれ、じゃあ結局なんの変化もないか。



「じゃあアダルティなジャンルは置いておいて、真面目でソフトな二次元談義をするです」



 二次元に真面目も不真面目もあるのかは知らないが、彼女がノリノリなので僕もその流れに乗ることにした。



「思ったんですけど、私達の世界の人達が異世界行くことばかり話してますけど。

じゃあ逆に私達の世界に未来の、文明な発達した数百年後レベルの人たちが未来から来たら、やっぱりチート的な反則技でこの私達の世界を支配できるんですかね?」



 む?、現代から中世文明のファンタジー世界への転移転生による移動じゃなくて、SF世界の未来から現実への移動、侵略者か。

 さしずめジョン・タイターのいる未来の、更に未来からやって来たっ侵略者って所か……別に彼は侵略者でもなんでもないけど。


 僕の知るわずかなSF知識を総動員して、その可能性を考慮して……うん、無理じゃない?

 SFというか、未来の世界には、みんなのアイドル猫型ロボットがいるじゃん。

 あのポケットの中身十個あれば、充分世界を支配できそうな気がする。そんなものを量産してネジの取れた欠陥子守りロボットにまで配れる程の、そんな世界からの侵略者だったら戦うだけ無駄だろ。……そうだね、抵抗するだけ無駄無駄。大人しく降伏して命だけは助けて貰うのが正解の気がするね。

 万が一抵抗する可能性があるとすれば未来からの対抗勢力、タイムパトロールとかが援軍に駆け付けて、こちら側についてくれる事かなぁ。



「では面白い新作SFアニメないですかねぇ?」



 面白い『新作』ねぇ……。懐古主義とか言われそうだけど、セル画時代の名作アニメに目を向けて見るべきだよ。そもその最近のアニメは一クール12話放送だからな。どんな名作も、見せ場をガリガリ削って小じんまりまとめてアニメにしちまうし、どうなっているんだろうね。日本のアニメ文化は?

少し人気がでれば直ぐにアニメ化だ。それは嬉しい事だが、同時に原作に含めまれた伏線や、特に渋いわき役の存在をぶつ切りにして、人物すらすべて無かった事にしてしまう。本当に最近のアニメを見ている青少年たちが哀れだね。原作に含まれた作者の想いが映像になっていない。

 アニメ一つ40話超え、アニメの一作品が総集編込みで一年がかりの放映だった時代が懐かしいぜ。



「先輩……あなたほんとは何歳ですか。まぁ、でも。私はそうは思いませんけどね。どんな名作も迷作も、まずは知って読んでもらう所からじゃないですか。アニメーションという動画にして音楽をつけて、声優さんの声を入れて命を吹き込む。その結果、物語は放送局という仲介を介してテレビやパソコンで視聴者の元へ届く。その切っ掛けで視聴者は原作に興味を持ち読者になって作者の思いに触れる、そうでしょう?」



うっ。こいつ中々に正論っぽい事を。



「それに知っていますよ。二クール時代は原作があまり書き溜まっていないのに、人気に押されてアニメ化して、原作レ●プで設定をガン無視してアニメオリジナル話をコレでもかと盛り込み量産して、炎上したアニメや原作者が怒髪天した作品が結構あったらしいじゃないですか」



 確かに否定はできない。この国のベレー帽姿の漫画の神様がアニメを勃興させて半世紀。数多く名作も生まれたが、それと比例して同じくらいに黒歴史もまた生まれて行ったのだ。



「故に私は今の一クール12話は正しいと思いますけどね。それで円盤の売り上げで元が取れると判断したら、二期目の制作を開始すればいいと思います」



 でも、それだとね。一期の二期で間が空いちゃうじゃないか。本当のファンならば待ち続ける事もできるけど、それでもねぇ。……消えちゃうんだよ、その作品を見て心に燃え上がった感動と笑いの炎が。

どんな名作だって間が空けば冷めてしまう、忘れられてしまう。大衆は正直さ。

 名作は色あせないなんて言うけど、確かに作品は色褪せないけど、その時に胸に灯った感動は色褪せる。

人間の感情なんてもって一、二週間さ。



「むぅ……なんと夢の無い」



 アニメ化の本数減らせばいいんじゃないの?低予算アニメも、三分のショートアニメも、悪くはないし大好きだけど、多すぎて最前線のオタクですら三か月、一クールおきに入れ替わる全てのアニメを追い切れない。僕も全部のアニメと原作を応援したいけど、全てを円盤買ってたら破産するしね。低予算で成功するアニメも確かにあるけど、それはスポンサーに祝福された、高予算アニメに比べ成功確率は限りなく低い。

炎上、爆死して原作に泥を擦りつける位ならアニメ化しない方がましだと思うけどね。



「えー、それは違いますよ! 先も言いましたがアニメっていうのは本に映像と音楽と声優さんと作り手の想いを詰め込んだ集大成です! アニメを減らすなんてとんでもない!」



 それは建前。裏では出版社が原作の売り上げが伸びそうな作品をリストアップしているだけさ。

 原作の売り上げを上げる為にアニメ化している出版社の販売手法の一つだって。

 アニメ化するだけで否応なく大衆の目に触れるし、出版社だって企業なんだから自社の作品を売る為にそれくらいするだろうさ。



「夢がないですねぇ。ちなみに先輩の一番のアニメはなんですか?」



 もちろん、『銀●英雄伝説』に決まってるじゃん。あれより面白いアニメなんて僕の中では永遠に存在しない。ちなみに僕はトリューニ●ト議長シンパだから。あんな清々しい程のクズっぷりは逆に胸がスッとする。あ~あ、議長が現実に存在したら喜んで秘書になるか、アイラン●ポジションでこき使われてボロボロになるまで利用されてあげるのに。但し同じクズでもアンド●ュー、お前は駄目だ。お前は俺を怒らせた。



「むぅ、私は一期のイゼルローン要塞までしか見ていませんが、先輩の好みが私を含めて他の人といささかずれている事は分かりました。あれですか、萌とか色っぽい女の子とキャッキャ、ウフフなアニメは嫌いですか?」



 いや、大好きだけど。大好きだけど。最近何かが違うんだ。


 僕みたいな純情少年はチラリズムに心ときめくんだ。

 露骨なお着替えシーンや水着、お風呂シーンは何かが違う気がする。

 それ以上の露出は見る側はドン引きするだけだし、



「それは……先輩は全世界のラブコメに対して宣戦を布告すると?」



 おい馬鹿、止めろ! 違うって。

 僕は二次元を愛する猛者を敵に回して生きる自身はないよ!

 パンチラとかラブコメとか『リ●さん』大活躍なら大好きなんだけど。


 うーん……ほら暴論だけど、胸の大きな女の子がやたらと胸とかを露出する作品で有名なのって、

『聖痕の●ェイサー』

『魔●秘剣帖』じゃない?

とか、あそこまでやっちゃうと、正直ドン引きしちゃってね。

あれを地上波やれるならみんな宿敵、●条例が必要じゃないかとか真剣に悩んでしまったよ。

深夜とはいえ地上波は子供が見てしまう可能性があるからね。



「えー、先輩らしくないというか。エッチなのはお嫌いですか?」



 だから大好きだって!

 ってそうじゃなくて、僕はエロがみたけりゃアダルトアニメで『対●忍』見るって。

 だけどあれは地上波じゃない。地上波に必要なのは、湯気と光が仕事するレベルまででいいんだよ。なんでそんなに限界に挑戦しちゃうのかなぁ。第二の規制計画が動き出したらどうする気だって話さ。



「……先輩も何も考えてないようでそれなりにアニメ文化について考えていたんですね。少し見直しました」


 少しかよ!

 ……まぁ、色々話したけどさ。結局はアニメも漫画もラノベも、結局最後は面白ければ良いのさ。

 シリアスも、ラブコメも、エロも、鬱も、SFも、ファンタジーも、異世界も、最後はただ一つだけ条件を満たせばいい。



「分かってますけど聞いておきますね。それは?」



 ハッピーエンドさ。

 僕の中ではハッピーエンドで終わらない作品はどんなに途中が面白くても『臥龍点睛を欠く』って事さ。

 まぁ、ベレー帽の漫画の神様は哲学的なアンハッピーエンドも結構好きだったみたいだけどね。

 あ。後、論外なのは風呂敷広げるだけ広げて完結させずに途中で逃げ出す人ね。



「まぁ、作者さんが亡くなったりして、未完の大作になってしまった作品で私もファンとして泣いた記憶はありますが」



 そうさ、現実に人は死ぬんだ。作者もね。

 誰も死なない、主人公が最強で一方通行な戦争なんてあるもんか。

 世界には死者が生き返る『七つの玉』は無い。過去の偉人が蘇る事もない。たった一回の人生だから僕は、僕らは、今を精一杯生き切らないといけない……なんてね?



「ほへ〜、真面目な先輩の言葉初めて聞いた気がします」



 僕も昔は正義感に燃える男の子だからね。昔は憧れの職業に……いや、なんでもない。現実は漫画みたいに上手くいかないからせめて漫画の中だけでも幸せな世界を見たいんじゃないかな。



「なるほど、そんな真っ直ぐな少年だった先輩の幼稚園や小学校の卒業文集で将来の夢ってなんだったんですか?」



 えっ……と。ナイショだね。



「むー、先輩のけちんぼ。でも漫画の世界……漫画かぁ。あ、そう言えば夏になれば漫画のお祭りがありましたね。先輩は今年の夏は行くんですか?」



 肯定する僕は『一緒に来るか』と聞いたが、帰って来た声は否定だった。



「いえいえ、私の夏休みはバイトの予定でいっぱいで、たとえ三日間と言えど拘束で抜け出す時間はないのです」



 『良ければ別のお方を誘ってください』、と続ける彼女に『僕友達いないしね』と返しておく。



「それってあれですか?あの某吸血鬼系男子高校生の『友達作ると人間強度が下がる』ってやつですか?」



 そんなかっこいい?ものじゃないさ。残念ながら本当に友達が居ないのだ。単純に僕は人と話すのが苦手なのだ。毎日毎日似たような話題を繰り返して、少しでもその話題に付いて行けないと爪はじきにする。ニコニコ笑いを張り付かせてあたり障りのない会話を毎日繰り返して、友達面を維持するのが疲れるだけだ。



「うにゅ?先輩にとって学校はつまらない場所なんです?」



 あぁ、つまらない。いや、『どうでもいい』、が正解か。僕は人に言われて何かをするって事ができない人間だからね。何かを言われて『はい』と言えずに考えこんでしまう。なんでそんな事をしなくてはいけないのか。そうやって考えて考えて考え続けて、答えは出ないのに結局行動もできない。そんな性格なんだ僕はね。君はどうだい?



「楽しいですよ?毎日が充実してます。夏休みが迫ってみんなに会えないのも、先輩と会話できないのも寂しいですし、私はこれからの高校三年間の生活が楽しみで仕方ないです」



 ふむ。今思えば過去に、この後輩から愚痴とか、面倒とか、逃げ出したいとかそういった後ろ向きの言葉を聞いたことがなかったな。その前向きさは僕には無いものだ、少なくともコミュ力はこの後輩に勝てる可能性は無さそうだ。



「むぅ。私もそんなに友達多い方ではないですよ?放課後もこうして先輩とお話しているくらいですし。あ、別に友達が少ないから仕方なく先輩と話しているって意味じゃないですからね」



 まぁ別にいいけどさ。それでなんだっけか、話の続き。夏コミに行くかって話だっけ?行くよ、相変わらずだけどね。カタロムも買ってあるしお目当ての大手サークルの位置情報も限定数も把握済み。

 僕はマンガ本はデジタルじゃなくて紙派だからカタログの方が好きだったけど、この歳になるとカタログという名の電話帳を三日間も鞄にいれて持ち運ぶのもキツくてね。



「はぁ。私も行ったことはないのでその苦労は分かりませんが、先輩がそのコミケに行き出す切っ掛けは何かあったんですか?」



 僕のコミケの入門書は『らきす●』だったなぁ。イベントの名前自体は『こみっ●パーティー』やってたから、(ちなみに僕は大●詠美にぞっこんだった)当時から名前だけは知っていたけどね。夏休みに東京行く機会があって何も知らずに行ってみたんだ。



「『らきす●』がやっている放送年だと先輩の今の年齢が気になるところですが、それで?」



 もちろん、再放送を見たんだよ。それで、良く分からなかったけど興味を持ってね。人混みは嫌いだから早めに行けば空いているだろうと考えて地元を始発の電車に乗ってねぇ。目的地が近づくにつれ人が減るどころか込みだすんだよ。人混みの山さ。

 インターネットもまだすべての全ての家庭に入っている時代じゃなかったし、事前情報なんて何もなかった。サークルチケットなんてあるわけないし、人混みに流されるままに既にできていた行列へ。行列に並ぶ為にどんどん会場から離れて行く時、別のイベントに紛れ込んだのかと内心不安だったけど。

 隣に並んでたおじさんが、どもりながらカタログを貸してくれて、簡単に説明してくれたのは良い思い出だなぁ。


 その後、会場に入れたのは始まってから一時間以上してから。

 カタログも現地会場で買って、サークル名なんて超大手の二、三個しか知らなくて、行ってみたら東と西を間違えて、汗まみれのお兄さんにまぎれて辿り着いたら当然のように完売してね。その横を見れば別の大手も行列の人だかり。

 結局、そのまま島中の好きなジャンルの固まっている辺りをブラブラしてね。当時、子供心に漫画家とかは雲の上の存在と思ってたけど、立ち並ぶ同人誌を書いた作者がその場にいるっていうのは新鮮だったなぁ。



「ほわぁ。大変だったんですねぇ。汗まみれのお兄さんの肉の壁に囲まれて、面白い作品とか、好きな漫画は見つかったんですか?」



 あぁ、それね。お店に委託しなさそうな、暇そうな中小サークルを梯子して、自分好みの絵柄を買い集めてね。それで……そうそう、面白い小説や漫画ないかって話だっけ?コミケは何らかの二次創作が多いけど、オリジナルのジャンルで参加している人達も確かにいたしね。みんな楽しそうにしていたなぁ。



「いいなぁ、私も参加したいけど私、絵が描けないからなぁ」



 おや、興味有りかい?じゃあ僕らでゲームでも作ってみるかい?思い立ったが吉日というし。

 シナリオは君で、それ以外CとJAVA、デバックとイラスト関連全部やってあげるさ。僕はキーボードタイプしか取り柄が無いしね。



「でも、先輩。三年生ですよね?受験勉強はいいんですか?」



 いいよ、僕は大学行かないし。さっき精一杯生きるとか言ったけど、後二年くらいは親のすね齧って引きこもる予定だし。学生時代にゲーム作ったって言えばどこかの企業が拾ってくれるかもだし。



「あれ、大学行かないんですか? 将来、どうするんです?」



 君が気にする事じゃないさ。でも専門学校でも行こうかな?代々木のさ。

 まぁ、何はともあれあと一年、僕らが過ごせる麗しき学生時間がある。やるかい、同志よ?



「ぜひやりましょう! 楽しみですね。約束ですよ?先輩!」



 じゃあやろうか。

 そうして僕らは指切りをした。それは良いんだけど、そんな大声をだすとまた……。

 予想通りそんな僕らにまたもや向けられるお叱りの言葉。



「……あなた達! ここは図書室だと何度言わせれば……!」



 ほら、また怒られた……。

 ある世界のある日の日常。そんなささやかな一ページ。







何処かで読んだような、おもちゃ箱をひっくり返したような作品を目指します。


なお、本作はギャグ少なめ、シリアス多めでお送りします。

お時間あれば、のんびりお読み下さい。

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