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ケンタと魔王2

ケンタは泣いていた

始業のチャイムが鳴ったがトイレの個室から出ることができない


教室から必死に逃げ出してきた

笑い声がまだ脳裏にこびりついている

浴びせられる罵声と嘲笑、それを遠巻きにして沈黙する大勢の視線

その中には玲奈もいた


もうここで首を吊ろうか?そんな考えがふと浮かんだ

亡骸が発見されれば少しは騒ぎになるだろう


金具にベルトをひっかけてみた

試みが熱を帯びてゆくうちに現実味を帯びてきた

周囲の時空が歪んでいくように感じる

まるで異世界に旅立つようだ


「やめときな」


輪っかに首を入れようとした時、

背後に立っていた男に肩を掴まれて阻止された

驚きのあまり声も出ない


「あなたは・・!?」

「魔王と呼ばれている」


「俺とお前は記憶を共有するらしいぜ」

「だけど、なぜ?どうやって?」

「オレにもわからん、わからんが現実は認めるほかにあるまい」

「だけどあなたは魔王なんでしょ!?魔王なら・・」

「王なら双六最強ってわけでもないさ」

「ボクはもう・・」

「早まるな、自決は絶望ではなく怒り、お前にはまだ怒りがある。

とりあえずここは狭すぎる」


再び周囲の時空が歪み始めた


さっき出会った魔王と名乗る男の姿が豪華な姿見に映っている

それが自分の姿なのだ

「ボクが魔王になっている!?」


ケンタは驚愕するとともに思わず呟いた

「カッコいい!!」

思わずポーズを取ってみた、

我ながらうっとりするような美形イケメンっぷりだ


「こんなにカッコいいのに魔王なの!?」

デスクに置いてあった新しいインカムを装着してみた、

クールだ、ますますサマになる


しかし、ここはどこなんだ?


部屋をあちこち歩きまわってみる

いかにもおどろおどろしい変わったデザインであるが

調度品のすべてが気高く美しい


「まさか魔王のお城・・?」


ケンタはテラスに出てみた


澄みきった空と輝く緑の森と草原の向こうには街並みが広がっている

城下町であるらしい

ヨーロッパ風であるような和風であるような

不思議な街並みが整然と並ぶ


そして雄大な海、それらのすべてが見渡せる最高のロケーションだ


深呼吸をすると空気がとにかく全身に行き渡り

存分に生き返った気持ちになる


ここは天国ではなかろうか?


ソファに腰掛けてみると、これが実にゆったりと座り心地がよく

それだけで無限にアイデアが湧いてきそうだ


置いてあるお菓子を食べてみた

「う・・う・・う・・うまい!!」


あ、マンガだ!

しおり?写真のようだ

超絶美人のお姉さんが映っている

「か・・かわいい!!」

眺めているだけで幸せになれそうな可愛らしさだ


魔王の彼女?ということはボクの・・?


あはは、いやはや不思議な夢だよな

そんなことを思いながらテラスから大空と海、城下町をのんびりと眺めた


ケンタはもうずっとこの世界にいたくなってきた

あんな世界にはもう帰りたくない


実に夢心地に浸っているとインカムから声が聞こえてきた


「魔王さま!勇者が接近しています」

「えっ・・?」

「魔王さま?」

「な・・なに?」

「『終焉の間』へ!」

「なにそれ?」

「え?」


いつまで経っても『終焉の間』に魔王が現れない

側近が執務室へ駆けつける

「魔王さま!」


困惑を浮かべた魔王が座り込んでいた


「魔王さまったら!」

「あっ!写真のお姉さん!」

「何言ってるんですか、勇者ですよ!」

「ボクは魔王じゃない!」

「もおー!」

側近が腕を引っ張っていく

魔王はこんなふうにトボける時があるので

側近も油断してしまったのだ


「ど・・どうしたらいいんですか?」

「もお!とにかくここへ座ってください」

ぎこちなくも『無駄に豪華な椅子』に座らされる

「もお!おねがいしますよ!」

「ちょ・・ちょっと・・」

側近は魔王、いや、ケンタを『終焉の間』に残して駆け戻ってしまった

やがてインカムから声が聞こえる

「来ましたよ!!」

重たい音を立てて扉が開かれ、勇者パーティーが侵入してきた


▼勇者が現れた!!


「魔王さまったら、眠れなかったのかな?」

だけどなんだろうこの胸さわぎ

モニターに映る魔王に精気が甦る気配がない

構えないのはいつものことだが、ふてぶてしさや憎たらしい台詞も全く出ない

ただ立ち尽くし、震えている、憔悴しきって、まるで別人のようだ


「ま・・まさか!?」


側近は立ち上がってしまう

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