ケンタと魔王1
魔王と側近は雲の上にいた
星々が瞬く
「こんな魔法をいつの間に?」
「オレは魔王だぜ」
側近をぐっと引き寄せる
「ま、魔王さま、『魅了』を使いましたね?」
「運命さ」
側近がつま先立ちで目を閉じる
魔王はその唇にそっと自らの唇を・・
「ケンタ!!」
声が聞こえる
ここは教室だ
殴られ蹴られているようだ
取り囲まれて羽交い締めにされる
なにやら凶器を突きつけられ、気が付くとズボンを脱がされている
「やめろ――ッ!」
遠巻きにする生徒たちの中にいる玲奈と視線が合ってしまう
「やめてくれえー!やめてください!」
「謝れ!」
何もしていない
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「声が小さい!」
更に殴られる、涙で視界が歪む
・・・夢かよ!!
ちっくしょう邪魔しやがって!!
「あー変な夢を見ちまったぜ、ケンタって誰だよ」
さっと着替えて執務室に向かう
何はともあれ今日の寝ぐせはダイナミックだ
執務室の「豪華すぎる姿見」で本格セルフチェックである
魔王たるもの身だしなみは重要なのだ
「うーむ!」
色々なポーズを決めてみる
「これカッコいいかも!?」
だんだんノッてきていろいろキメていると側近の姿が映っているのに気がづいた
「おはようございます!」
「うわあああ!ノックしろと何度言えば!」
「しましたよー!魔王さまが気づかないから」
「ということは・・」
魔王は顔を赤らめる
「いえいえ、私は何も見てませんよ」
目が笑っている、こやつめ・・
「えっへん、して、用向きは?」
「モニターのチェックです」
「おお、PAの日か」
デスク上のインカムを渡す
「じゃまた後で!」
「おい、ちょっと待て」
「どうしました??」
「あのさ、この前さ、日本に行ったじゃん?」
「ええ、大阪ですね」
「例の勇者、高ノ原殿は日本人の名前と様相だが日本人ではないよな?」
「そうですね、あの方は人族の王国の最高師範、
日本というのは異世界の、パラレルワールドですから」
異世界を行き来できるのは魔王や側近のような王族、
それに準ずる最高位の人型魔族だけだ
そして見かけが日本人に似ていることから
魔王も側近も全く疑われること無く視察できるのだ
「日本という国と魔界は異世界だというが、それは完全異世界なのか?」
「そう考えられていますが、完全には解明されていません」
ふーむ
「その日本では天皇という王がおられるが政治をなさらぬという、
これはどういうことだ?」
「厳密には皇帝ですが・・、憲法に封印されておられるのです」
「憲法?」
「立憲主義によって皇族による等族会議は解体されています」
「人族の使う魔法ってことか、民主主義とかいう?」
「魔法というか、私達の魔界では評議会ですが、異世界の民主主義では・・」
「いや、わかった、また今度聞こう」
魔王は側近を追い出した
講義モードに入ると長いのである
「あっ、ちょっと待て」
魔王は側近を追いかけた
「もお!なんですか?わがままなんだから」
「あのさ、魔法とは精霊との契約だよな、だけど・・」
そもそもの媒体は自然に依拠する
「そうですね、エネルギーは与えられるもので作り出すことはできません、
そもそもですね・・」
「運命やら宿命と同じというわけか、うむ、戻っていいぞ」
魔王が「頭ポンポン」してやると側近はむくれながらも
顔を綻ばせ、足取り軽く去っていった
「ケンタといったな」
魔王は執務室のデスクの上にある石を手にとった
お城の散歩道に転がっていたものだが
気になって仕方がないので数日前にとうとう持ち帰ってきたものだ
「封印・・、それに類する何か」