表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

団欒と騒乱

勇者高ノ原は病院で1ヶ月過ごした後、やっと帰宅することができた

「パパー、お疲れ様ー!」

「おうママにこれ、お土産」

「まー、素敵!」

娘の遥香もかけよってきた

「パパおかえりー!」

「おう、元気だったかー」

1ヶ月顔を見ないだけでなんだかキャラが違う気がする

この時期の女の子はそういうものかな?

「遥香にはこれだ」

図書券である

その他、王様から賜った褒美の品々は後で宅急便で届く予定だ

これから支援者巡りをして挨拶をしなければならない

しかしとりあえず、しばらくはゆっくりできる

「うおー、おいしそうだな!」

妻のマーサと遥香が腕によりをかけて作ってくれたリッチな料理だ


リッチな料理と旨い酒、なによりも愛する家族

「ぷはー、うまい!」

「控えて欲しいけど、今日は仕方ないね」

遥香がいうと、ママも頷く

「王様の前で酒臭いわけにはいかんからな、あーははは」


勇者一家は久しぶりの一家団欒を過ごした


「遥香の調子はどうだ?」

「友達とも上手くいってるみたいだし、成績も上がってるって」

「うむ。で、マーサ、お前はどうだ?」

「私は大丈夫、でも毎日心配だった、これは遠征のたびにそうだけどね」

「心配かけてすまんな。遥香が大学を卒業するまでの辛抱だよ」

「私は大丈夫、勇者の妻だもん。でも遥香が卒業したときは…、

今度はお婿さんの心配しなきゃいけないけどね…」

「そうだな」

夜は更けてゆく

「ところでな、マーサ」

「なぁに、ごお君」

「オレは見たんだ」

「何を?」

「魔王さ、魔王の顔さ」

「な・・・なんですって!?」

マーサが思わずベッドから跳ね起きる

魔王の姿を見たもので生き残ったものはいないのだ


魔王と立ち会った勇者は全員葬られ、生き返っても記憶はなくなっている

「お車代」をもらえるほどの実力者は【終焉の間】へと行くことはない


剛造は「お車代」の額が気に入らなかった。

というよりも軍産複合体を延命させ、闘いの世界を続けようとする

人族、魔族双方の魂胆が気に入らない、それ以前に最強勇者として、

真剣勝負にこだわってきたプライドがあった


「オレは見た・・魔王を」


・・・・・・・・・


魔族の酒場に1人の若い男が入ってきた

カウンターに座る

「親父、日本酒をくれ」

周りの魔族たちが冷やかす

「ひゃっひゃっひゃ、坊っちゃんよお!100年早いぜ、

だいたいここはお前みてえな坊っちゃんの来るところじゃねえ!

坊っちゃんはママのミルクでも飲んでな!」

そう言って下卑た笑い声を上げる

「オヤジ、オレの言ってることが聞こえねえか?早く日本酒をよこせや」

「お客さん、日本酒っても、色々あるんですぜ、銘柄はどれにいたしやす?」

並んだ瓶を指差す

「あれだ、あの右から3番目の・・」

「紅壽ですか?これ・・あんたが呑んだら…」

「いいから」

「おいおい坊っちゃんよお、こりゃおめえさんにゃ無理だって」

魔物が肩を叩こうとする

「気安くオレに触るな」

若い男は鋭い目を向ける

「なんだあてめえさっきから生意気な!…何?なんだこいつ、人間だぞ!!」

そう魔物が叫ぶと、酒場の魔物たちが色めき立って若い男を取り囲む

「ほう、なかなかにイケメンだな」

「おいてめえ、人間ってことは勇者の仲間かよ!?」

「オレが人間に見えるのか?」

そういうと若い男は殺気立った目を向ける

赤く血の色に燃えている

男が何やら呪文をつぶやき、気合を入れる

「う・・うわああああっ!!」

凄まじい魔闘気が溢れ出し、取り囲んだ魔族たちは凍りつくような戦慄とともに

その場にへたり込んでしまった

「死ぬぞ、お前ら」

「何者だてめえ!?」

魔物たちはこれほどの魔闘気を感じたことがない

1人の魔族が闘争心をかきたてられ、この若い男に挑みかかった

「若造め、調子に乗りやがって、ここいらのモンじゃねえようだが、

ちっとは礼儀を教えてやるぜ」

肩を乱暴に掴んで店前の広場へと引きずり出す

今度はなされるままについていく男、しかしその目は憤怒に燃えている

男と魔物は向かい合った

「オレは酒を飲みに来ただけだ」

「そんな言い分は通用しねえところに来ちまってる、試しに謝ってみるがいいさ」

「やむを得ん」

「なんだてめえ、構えないのか」

「そんなものは必要ない」

「てめえ!」

魔物の攻撃!鋭い爪で男の喉笛を狙う

「あ・・あれ」

魔族たちがどよめいた

男の姿がない

「ここだ」

見れば上空に男が浮遊している

「い、いつのまに、でえええいっ!」

今度は火焔魔法だ、男の全身を炎が包む

「勝負あったな、あれをくらって生き残った奴は・・う・・うぐああっ!!」

ぎゃああああ!という絶叫とともに魔物の身体が逆に炎に包まれる

自分がかけた魔法を自分が受けている

男は振り返りもせず店の中に戻っていった

パチンと指を鳴らす

「あ・・あれ?」魔物を包んでいた炎が消えていた

「あの野郎!!小賢しいマネしやがって!」

追おうとするが

「待て!やめろ!やめてくれっ!!」

見守っていたマスターが魔物を引き止めた

「このとおりだ、もうやめてくれ、次は本当に命がない!

あの男は・・いや、あのお方は…」


男の他に誰もいなくなった店内。

男はカウンターに置かれた日本酒を一口飲むと

「やっぱり苦いな」そうつぶやいて席を立った

店から出てくる男を邪魔立てする魔族はひとりもいなかった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ