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別行動と計画

 山頂近くにある環境観測研への複数の登山ルートにおいては、七合目付近にいくつかある山小屋に対し、定期的にヘリコプターによる物資輸送が行われる。お母様にはフィリーオ兄様の忘れ物を届けに行くということと、環境観測研に立ち寄ることを話して、そのヘリコプターに乗せてもらうことになった。コンサートホールのヘリポートから、山小屋への物資輸送用ヘリがある場所まで行ってから乗り継ぐのが時間のロスだけど、仕方がない。


「ルナさん、ボクが行くまで兄さんにムチャさせないでくださいよ?」


「ええ、わかってます」


 お兄様のウェアラブル端末の腕時計や、ナビゲータパネル、インカム、弾倉の入ったバックをカナルから受け取った。


「ところで今の話だと、カナルさんも遅れて私達の所へ来るのですか?」


「行きますよ! その前に気になることがあるので、そちらを確認してからになりますが」


「『気になること』ですか?」


「はい。かなり昔のループで、客船で兄さんが旅をしている最中に、出会ったヒトが言っていたことが妙にひっかかっていて。まぁ、その方とは、そのループ限りでしかお会いしていないので、今はどうされているか分からないですが……」


「その方はなんて?」


「『今、私がフィリーオ・ロークスを保護しなければ、これから始まる内乱に巻き込まれる。しかも表沙汰になれば、トカゲの尻尾切りのようにロークスごと切り捨てられる』と」


「……内乱ですか。その方は、ジンと同じ所属の諜報員でしょうか?」


「たぶん、そうだと思います。ボクの船内ショーで兄さんを狙っていたので、それを阻止したあと、キッズルームでテスを見かけたので、ボクのキャビンにテスを招待したら、見事におびき寄せることができましたよ? あの様子だとテスの後見人のようです」


「テス……あの子は、どのループでも警戒心無さすぎってことがわかりました。で、キャビンで尋問したということですね。情報源としては信用できそうですが、他に情報は?」


「特にないです」


「先程お母様から聞きましたが、環境観測研のトップの人事権は、実質的には政府首脳補佐官のようです」


「異例ですが、数年前に研究取りまとめ機関から独立し、第三セクターになったみたいですね。ちょうど、気象現象の『天使の虹』が見られるようになった時期と一致してます」


 カナルが電子端末を操作しながら内容を確認している。


「だとすると、ロークスは政府首脳補佐官が関与する内乱に見せかけたクーデターに巻き込まれた可能性がありますね」


「内乱に見せかけようとして失敗し、人類滅亡って……まったく笑えないですよ」


「……カナルさん、やはり私達の所ではなく、別行動していただけますか? ロークス内のキメラ推進派と政府首脳補佐官の一派、そして環境観測研の3つを同時に押さえれば、相手の逃げ場がなくなります。このチャンスは二度と来ないです」


「なるほど、わかりました。ロークス内部はルナさんと兄さんのご両親が、ボクは政府首脳補佐官一派ですね。ちょうどパーティーの招待をいただいていたのですが、ツアーを理由に断ったんです。画家のナギラさんもいますので、そちらは対処できそうです」


「お願いします。あと、キメラの培養プラントのプログラムコードを入れ替えるので、ダミーコードを作ってください」


「これからですか!?」


「はい、万が一のときのために。表沙汰になって、このままロークスにすべての責任を押し付けられ、お父様達が経営責任を取らされるのは面白くないです。逃げ場は完全に塞がないといけません。迎えが来るまで、まだ時間がありますから、カナルさんなら充分用意できると思いますよ?」


 カナルは「……わかりました」と私に返事をしながらも、トレーラーの入口から階段へ上がる最中に「おかしい……、同じ年で対等な立場になったハズなのに……、転生して関係はリセットされているにも関わらず、以前と立ち位置が同じになってきている」と独り言をブツブツ言っていた。もちろん私は過去は振り返らない主義なので、聞かなかったことにした。




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