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環境観測研の秘密

「政府系軍事施設? 地図上では第三セクターの環境観測研となってますけど」


 カナルが地形データと共にモニターの右端に表示されている組み直した地形データと一致する可能性がある場所の一覧表のトップを指した。


「新たに軍事施設を作る際に行う事前調査を一手に引き受けている。表向きは環境調査だけを行っているとされているが、実際は世界中の軍事研究の情報収集を行う諜報機関だと聞いた」


「その第三セクターに、なぜロークスのキメラ研究の情報だけでなく、キメラの光の培養プラントが?」


 お兄様からの情報を聞き、次々と疑問が出てくる。カナルがそう言うのも無理はない。私は「おかしいですよね。ロークスは、各国の要人のセキュリティサービスも請け負っていますから、あくまで中立な契約しかしないハズです。まず、こんな信用性がなくなるようなことはやらないのに」と、カナルの意見に同意した。


「軍事転用可能な技術を秘密裏に1カ国にだけ提供か……。表に出せない国の金がロークスのキメラ研究推進派に流れているかもしれない」


「だとすると、……もしかして、ココの人達が内通者としてロークスに入り込んでいたってことでしょうか?」


 LISSで起きたことについて考えを巡らし、そう言うと、お兄様が頷く。


「おそらく間違いなく入り込んでるだろうな。それに、このことは政府側も一部の人間しか知らないだろ」


「あぁ、だからなんですね。あの島にあったプラントやセキュリティロボットが外部の情報端末に繋がっていなかったのは、ロークスのシステムを使って政府系のシステムにアクセスすることは不可能だから」


「民間のシステムと国とのシステムはそれぞれ独立しているからな。最新の研究のフィールドテストにも関わらず、外部システムに繋いでいない昔ながらのプラント設計にせざる負えなかった。目につかない場所へ、必要最低限のときだけヒトが出入りする方が気づかれないって考えたんだろ」


 お兄様とカナルの会話を聞き、緊張する。この情報が漏れないように、今もジンを追っていた人達が『ジンのデータスティック』を探し回っているハズだ。森の中にある『ルッコラ最北の地――テスの家』や、その周辺、廃墟の屋敷『セカイノハテ』の側に乗り捨てたジンの車も人の手が入っているに違いない。そういう状況を考えると、おそらくフィリーオ兄様は今夜中にでも『キメラの光』の成体用培養プラントのある『環境調査研』に奇襲をかけるに違いない。


「カナル、そのデータをコッチに転送してくれ」


「わかりました」


 お兄様はカナルの返事を聞くと、重ねていた私の手を外した。


「お兄様、どちらへ?」


「下に行く。たぶんずっと明日まで引き籠ると思う。集中したいから声はかけないでくれ」


 お兄様は早足で階段を下りていってしまった。カナルと二人っきりになり、私達は顔を見合わせた。


「カナルさん、お兄様はあのように言ってますが、どう思います?」


「明日の朝にはココにいませんね、おそらく」


「私もそう思います」


「ルナさん、すぐに睡眠をとった方がいいですよ。睡眠不足でのタンデムは危ないですから」


「そうですね。ではカナルさん、お兄様の見張り、お願いします」


 秘かにカナルと打ち合わせをし、私はフィリーオ兄様とは反対に階段を上がって、急きょ仮眠をとることにした。

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