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狙われた理由と新たなる切り札

 住居型トレーラーに戻ると、「二人とも連絡入れずにドコに行ってたんですか?」と不機嫌そうにカナルが出迎えてくれた。


「ジンとテスを『セカイノハテ』の近くにあるロークスの施設へ見送りに行ってたんです。お礼にステキな情報をいただきました」


 カナルにジンから受け取ったデータ入のスティックを渡した。


「これは……。ジンから受け取ったものなんて、本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫です。おそらく、そのデータのせいで仲間に追われて始末されそうになったのかと。普通の狙われ方ではなかったので。それに、ジンが『その切り札は上手く使え』と言ってたぐらいですから、期待できますよ?」


 私が答えても納得せず、いかにも怪しすぎるとでも思っているようで、カナルの眉間のシワが深くなる。お兄様が「カナル、セキュリティチェックは済ませてある」とフォローしてくれたので、カナルは渋い顔をしながら、私から受け取ったデータスティックを端末機につなげた。


「まぁ、兄さんがそう言うなら、とりあえず中身のチェックだけはしますが……。ルナさん、過度に期待しない方がいいですよ?」


「わかってます。お願いしますね?」


 カナルがモニター画面を見ながら操作を始めた。

 冷静に受け答えをしたが、何が得られるか楽しみでワクワクしている。今回、巻き込まれたとはいえ、ジンにとってテスの命の価値と同等のものを報酬として私にくれたに違いない。私は立ったまま、ジッとカナルの座っている場所の斜め後ろから、モニターを見つめた。すると、私の髪の中にフィリーオ兄様の手が入ってきた。


「お兄様?」


「本当に黒髪なんだ。サラサラだね。髪の色や髪形、服装が違うだけで、こうも変わるとは」


 いつもと違う私の格好をよく見たいらしく、じっくり観察される。


「お兄様は、こういうのもスキですか?」


「たまにはいいんじゃないか」


「ボクはルナさんが別人に見えて、浮気現場を目撃した気分になるから、すぐにでも元に戻って欲しいです。居たたまれない」


 お兄様と私のやり取りは、前にいるカナルから見えないハズなのに苦情を受けた。しかも浮気現場とか、失礼なことを言う。


「そんなに別人なら、今日学んだことを試してみる価値はありそうです」


 私は自分の体をフィリーオ兄様の体に擦り寄せ、お兄様の手を後ろ手にとって、自分の腰に回した。


「僕を口説く?」


「ええ、練習です。お付き合いください」


 お兄様の唇に私の人差し指を当てて、これ以上質問や反論を受け付けないという意思表示をした。しかし、カナルが溜め息と共に振り返ってコチラを向き、「ルナさん、何の茶番ですか……。まったく意味がないですよ? 完全に落ちている相手に対して練習なんて時間の無駄です」と、私の練習を阻止した。


「別人って言ってたのにですか?」


「兄さんは別人なんて思ってないですよ。それよりジンのデータですが、地形データで一致する場所がないです」


「!」


 カナルの言葉に衝撃を受け、モニターを見る。


 ――まさかタダ働き!?


 ジンのことだ。思わせ振りな態度をとってタダ働きさせるなんて簡単なことだ。ココロの中が、悔しい気持ちと同時にフィリーオ兄様を巻き込んだことへの申し訳なさでいっぱいになった。


「お兄様……ごめんなさい」


「なんで? 謝るにはまだ早い。カナル、その地形データを2000倍に拡大してくれ」


「はい」


 拡大すると、所々に不自然な切れ目が入っていた。


「分割画像にして入れ替えてある?」


「しかも、それぞれの画像倍率はまちまちだな」


 カナルの呟きに、お兄様が頷きながら更に言葉を続けた。カナルは画像の切れ目に沿って分割させ、拡大・縮小し、パーツを入れ替えていく。


「見覚えがある」


 まだ完全には姿を現していない地形データにも関わらず、モニターを見つめていたフィリーオ兄様が「政府系の軍事研究機関……」と答えを言った。

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