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二人の無双突破

 車やバイクでの移動は、ジンを狙う人達に見つかりやすいという理由で、徒歩で目的地に向かうことになった。目的地周辺は工業地域で、円筒状のプラントタンクや配管、鉄塔などの工業施設が密集している。


「ルナとテスは、ココにいてくれ」


 道路沿いにある古そうなアールデコ調の建築物まで来ると、フィリーオ兄様からそう言われた。


 ――ここは、給水塔?


 お兄様とジンは黒ずんでサビれた給水塔の上へと登っていき、そこから伸びるトラス補鋼形式の水管橋の中をすり抜けるように通っていく。橋は私がいる場所から30メーター上にあり、2キロ先の工業施設に向かっている。


『おい! 確かこの先の両サイドに罠が張ってあるんだよな? 二手に別れるぞ』


 二人の姿はハッキリ見えないけれど、お兄様のインカムを通してジンの声が聞こえてきた。


『有効射程は?』


『50だ。そっちもだろ?』


 お兄様の質問にジンが答えながら銃に装弾する音が聞こえた。いつも聞いているフィリーオ兄様のコルト45の装弾音とは違う。


『ワルサーの40口径か』


『あぁ。それより、ソッチの壁側はオマエの担当な!』


『……コッチの方がトラップ解除だけじゃなく人間もいて厄介なんだが』


『だからだよ。情報収集しか能のない、しがない元諜報員より、オマエの方が罠に嵌めるのは得意だろ?』


 ジンの勝手な言い分にフィリーオ兄様が溜め息をつくが、断ることはしない。



 ――情報収集しか能がない? 絶対、ウソ!


 ――お兄様、ヒトが良すぎます!


 私が一緒に行けたなら、ジンの口車に乗らないようにすることができるのに、それができないのが歯がゆい。もうジンとの打ち合わせは終わってしまったので、このタイミングでフィリーオ兄様に私が助言をするのは不適切だ。

 ジンはそのまま水管橋の中を通り、お兄様は途中で橋の斜め下に並行に位置する工業施設の高い壁の上に飛び移ったようだ。すぐさま弾丸が突き抜ける金属音が次々と響き、お兄様のインカムからの音と遠くから聞こえる残響でフィードバックが起こる。そして、それらの音の中に人のうめき声も微かに混ざっていた。


 ――もうそろそろ?


 予想通り、お兄様から『ルナ、テスを連れてコッチへ』という合図が入った。「わかりました」と答え、テスを連れて地上を移動する。歩いているうちに、遠くから聞こえる銃声が静かになった。


「お兄様!」


 塀の上にいる姿が見えたので、私が呼び掛けると、お兄様が塀から私の前に降りた。


「動くな!」


 ジンの声と共に、ワルサーPPSから撃たれた弾丸がジンの足元にある橋に当たって方向を変え、フィリーオ兄様の背後の塀から伸びた銃を弾いた。


「跳弾射撃……? 情報収集しか能がないんじゃなかったのか?」


 訝しげにフィリーオ兄様が見上げてジンに尋ねると、噛み殺した笑いを含む言い方で「たまたまだ。偶然! まぐれだ!」と、ジンが銃をしまいながら、水管橋から地上に降りた。


「お兄様……」


 私が慰めるように言うと、お兄様は「……だまされたか」と呟いた。



*****



 ジンに「ココまででいい」と言われ、私達はジンとテスの二人と別れた。


「それにしても、ジンは、なぜテスに危機管理のことを何も教えてないのでしょうか。普通、自分の身を守るように必要なことは教えておくと思うのですが」


 バイクでの帰り道、私は答えを求めるワケでもなく、思い浮かんだ疑問をフイに口にした。


『危機管理をしなくても、そういう対策を何もせずに暮らしていけるのが一番だって考え方だからかな』


「そうだとしても……いくらなんでも行き過ぎな気がします」


『まぁ、ロークスとは考え方は違うな』


「ええ、そうです」


 夕焼けの中、私とフィリーオ兄様は、カナルのトレーラーのあるコンサートホールに帰った。

 

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