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ルーレットとチェス盤

 部屋を出たお兄様は、ルーレットの所に着いたようだ。ケースからチップを出す音、テーブルの上をカジノチップやルーレットチップが移動する摩擦音、そしてディーラーのベルの音に、お兄様がテーブルに次々と積んだチップを置き始める音がインカムから聞こえてくる。


 ――始まった!


 私はテーブルの中央に嵌め込まれたガラス板を取り外し、ガラス製のチェスセットを取り出した。

 情報はルーレットのゲーム内で10回に分けて教えてもらえる。お兄様のインカムを通して聞こえてくる会話や周辺の雑音を聞き漏らさないように集中する。

 お兄様がディーラーに『例の合言葉』を告げたのを聞いて、私は盤の手前の左からクイーン、ルーク、ナイト、ビジョップを並べた。

 ルーレットの回転する音のあと、ボールが盤上を弾み続ける音が響く。


『11』


 お兄様から最初の数字が告げられた。私はクイーンをチェス盤の『1-a』に置く。

 再びフィリーオ兄様がケースからカジノチップを出す音が聞こえてきた。情報を全て聞くには、毎回スターの形にベットし続ける必要がある。かなりの高額な掛け金だ。



*****



 私の前にあるチェス盤上には、『3-c』にルーク、『8-b』にナイト、『1-d』にビジョップが配置されている。その他にもポーンが『1-f』、『3-a』、『3-c』、『3-f』、『4-b』に置いてある。


 ――これは……かなり厳しい状況


 チェス盤を眺めて溜め息をつく。クイーンは、このカジノのある屋敷、ルークは私達の目的地、ナイトとビジョップは現在トラップなしで入れる目的地に繋がる道、ポーンはトラップや妨害となりそうな要因となるものを示している。


『最後だ、17』


 私はポーンを『7-a』に置き、「お兄様、お疲れ様でした」と伝えた。


『どんな感じになった?』


「ナイトの位置から入るのは厳しそうです」


『なら、ビジョップ側からだな』


「はい。ただ、ビジョップ側にも途中でトラップがあります。両サイドに仕掛けられている場所もありますので」


『陸地は、だろ?』


 ――えーっと、お兄様、言っている意味がわかりません


 どういう意味か聞きたかったが、お兄様に『状況が変わらないうちに行動したい。すぐにココを出る準備を』と言われてしまった。お兄様に、何か考えがあるらしいことは分かったので、とらあえずカジノの女性スタッフに伝えて、ココを出る準備や手続きをする。テスを起こした頃に、お兄様が部屋に戻ってきた。そして、カジノチップは換金せず、そのままカジノフロントに預け、私達は屋敷の外に出た。


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