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見込みとジンから貰った切り札

 ケースに入ったカジノチップを部屋まで持ってきて、チップの枚数などに間違いないかを私に確認させると、すぐに女性スタッフは部屋から出て行ってしまった。

 部屋の中はカジノ場から隔離されたように静かで、インカムマイクから聞こえる音に集中できる。


「遅いな……、そんなに外を確認するのに時間はかからないだろ?」


 早く戻ってこないフィリーオ兄様を、ジンが気にし始める。


「まだかかりそうです。女性客に捕まったようで、口説かれている最中ですから」


「さすが無駄に外見が綺麗なだけはあるな」


「お兄様は内面もステキですので仕方ないです」


 流れるようなジンとの話の最後に私が同意すると、『今、気がついた』とばかりのように「おい」と、私に呼び掛けた。


「…………口説かれてるって、どう考えても子供が聞く内容じゃないだろ!」


「社会勉強です」


「いや、絶対違うだろ!?」


「違わないですよ? 『人をまとめる』ということは、いろんな方と話し、相手の気持ちを掴み、士気を高めていかないといけません。異性を口説くという一連の行動は、限られた時間内で効率よく人の心を掌握するのに重要なことが凝縮されていますし、成功へと導く要素のみ取り入れられてますから、大変参考になります」


「ロークスでは、いったい子供にどういう教育してるんだよ……」


 私の言い分にジンがぼやいた。


「学んだら、使える技を取り入れて試してみるようには言われてますよ?」


 私がジンに向かって言ったら、なぜかインカムを通して『ルナ、そういうのを試すのはダメだ』と、お兄様から反応がきた。どうやら口説かれていた女性から逃れたらしい。


「そう、残念です。お兄様で試そうと思っていましたが、今回の知識は活用せずにデータとして蓄積するだけにしておきます」


『…………』


 お兄様からの反応がない代わりに、ジンが吹き出して笑い始めた。


「オマエ、いい性格してるよ、ホントに。きっとアイツ、青くなったり赤くなったりしてるな。いかにもストイックに生きてるって感じで気に入らなかったんだが……面白いものが見れた」


「残念ですが、間違ってます。お兄様は大人ですから、いつも冷静で、余裕がありますよ?」


「上手くそう見せているだけだ。その証拠に……」


 ジンが言いかけたところで扉が開き、お兄様が「彼女に余計なことを言わないでくれないか?」と部屋に入ってきた。


「お兄様、お帰りなさい。チップの用意ができてます」


 私の前に置かれていたカジノチップの入ったケースを取り、「どうぞ」とお兄様に手渡すと、「ありがとう」と言って、再びすぐに部屋を出て行ってしまった。

 先ほどより更に静かになった部屋は、テスのスゥスゥという規則正しい寝息だけしか音がない。


「まぁ、いいや。とりあえずロークスの嬢ちゃんは、俺が見込んだ通りだってことを確信したよ。その切り札は、上手く使えよ?」


 ジンはフッと笑いながら、テスの頭を撫でていた。

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