乗船
1週間後――
「フィリーオ兄様と船旅……フフッ」
思わずニヤけてしまう顔を両手で挟み、真顔にもどそうとするが、表情が戻らない。これから「グリフォンフラグ」の攻防戦が船上で繰り広げられるのだがら、気を引き締める必要がある。にも関わらず、浮き足たった状態だ。
「もう、こんな時間! 早くしないとお兄様が迎えにくる時間になってしまう」
私は両親とは別行動でお兄様達と船で旅行し、そのまま転居先に行く予定になっていて、お兄様がこれから住む家まで私を送り届けてくれる。
「琉梛お嬢様、フィリーオ様がいらっしゃいましたよ」
お手伝いの佐藤さんが、いつもの通りに私の部屋まで呼びに来てくれた。
「ありがとうございます……佐藤さん、お世話になりました」
「いえいえ……船旅、お気をつけて行って来てください」
「はい、佐藤さんもお元気で」
お手伝いの佐藤さんは、引き続きこの家に住み込みで働くため、今日で暫くの間お別れだ。
「お兄様、お待たせしました」
「挨拶は終わったの?」
「はい」
「じゃあ、行こうか」
私たちは、乗船予定の港に向かった。
*****
クルーズは、堅苦しいのが苦手という桐谷さんと奈月さんの二人に合わせてカジュアルクラスの船にした。ドレスコードでフォーマルになるのは、ウェルカムパーティーのときだけなので、船上でのカメラによる撮影活動にも支障はないと思う。
私とフィリーオ兄様はセキュリティチェックを終え、パスポートと乗船チケットを船内スタッフに預けて、ロイヤルスイートキャビンのルームキーを受け取った。
桐谷さんと奈月さんは既に乗船している気配はあったが、私たちの隣の部屋にはいなかった。おそらく早速2人は、良さそうな写真撮影場所を探すために船内を回っているのだろう。夕食は同じテーブルで合流するので、今は2人を探さずにフィリーオ兄様と行動することになった。
「お兄様、出港まで時間があるので、ラウンジに行きませんか?」
私の提案に頷いたお兄様が手を差しのべてくれたので、手を繋いでラウンジに向かう。ラウンジでウェルカムドリンクを受け取ると、出港の合図の汽笛がなった。
船上での戦いが始まる――