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特殊な送迎3

 私の準備が終わった頃に、ジンとの話していたフィリーオ兄様が戻ってきた。


「ルート1048じゃなくて、違う道を行くことにした。バイクで先導するから、すぐに出発するよ?」


「わかりました」


 お兄様にバイクのキーを返すと、インカムが引っ掛からないようにヘルメットを被った。



*****



 私達の乗るバイクの先導で、ルート1048と同じ方角へ進む旧街道へ入った。

 先ほどまで走っていたルート1048で、お兄様がジンを狙う車を全部排除してしまったため、相手組織が異変に気づくのは時間の問題だ。追加で人員を投入されることになるだろう。お兄様が持っている弾倉も限りがあるはずなので、余分な争いを避ける方向で行動することにしたようだ。


『ルナ、途中で"例の場所"の周辺の状況を事前に情報収集したい。諜報員の間では有名な場所だから、敷地に入る前に妨害されるかもしれない』


 インカムから聞こえるフィリーオ兄様の要望に「そうですね。それなら……」と、答えようとして言葉を飲み込んだ。


『なに? 今、言いかけただろ?』


「……あまり子供が出入りするのに、相応しくない場所なので。テスがいることを忘れてました」


『どこだ?』


「セカイノハテです」


『あぁ、アソコか。確かに相応しくないな』


「えぇ。ただ、あの場所は質の良い情報が集まりますし、遠距離ですが、鳥瞰図のように上から見渡すこともできます。あと、弾倉も補給可能です」


『相応しくないものを見せないように入ることは可能?』


「建物に入るときに代理人を立てる申請をすれば、そういう場所を見ることなく、ストレートに別の部屋に案内されます。高額の掛け金で回し続ければ、他の方たちと接触せず、個室に引き込もることが可能です。資金源はありますので、実行できます」


『了解。"セカイノハテ"に1時間後に入ると連絡を入れてくれ』


「テスを連れて行くのですか!?」


『この辺で安全に待機できる場所なんてないからね。それにちゃんと依頼は遂行しないとダメだ。成功報酬、前払いで受け取り済みなんだろ?』


「……はい」


 お兄様に秘密にしようと思っていたのに、ジンが話してしまったようだ。成り行きとはいえ、自分の身の安全のために商談に無理矢理持っていき、ついでに報酬を要求したことが知られてしまったのだ。切り抜けるためだったけど、お兄様に神経が図太いと呆れられてしまったかもしれない。急に恥ずかしくなり、声のトーンが沈んで小声になる。


『ルナ?』


「……はい」


『元気がないみたいだ。具合が悪くなった?』


「いいえ、体調は問題ないです。ただ……改めて私の神経の図太さに落ち込んでいただけです」


 私が素直に理由を話すと、お兄様がクッと喉を鳴らし、『危なかった……運転を誤るところだった』と呟いた。インカムをつけているから独り言のように言っても音を拾って聞こえてしまう。


「落ち込んでいるのに笑うなんてヒドイです!」


『今さらそんなことを気にするなんて、意外だったから』


 ――今さら!? 今さらって、どういうこと?


 軽くショックを受ける。上手く隠してたと思っていたのに、前から『神経が図太い』と、お兄様に認識されていたということだ。ガックリした。


『もしルナが、そういう性格じゃなかったら、きっと一緒に連れては行かない』


 ――え?


『あの時、ルナがどんなに泣いていてもロークスの家に置いて行ったし、もし先回りして僕についてきても、強制的に家に帰すよ。ルナもテスを見ているから分かるだろ? だから、落ち込む必要はない』


 確かにテスはこんな旅に絶対連れて行けない。不安要素が有りすぎる。お兄様の言葉で、さっきまでいっぱいだった不安な気持ちが消え、安心感が広がった。


「お兄様、ありがとうございます」


『うん』


「セカイノハテに連絡を入れますね?」


『頼む』


 私は子供が行くには相応しくない、世界有数の厳選されたギャンブラーだけが招待される『カジノ セカイノハテ』に連絡を入れた。

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