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特殊な送迎2

 あっという間に、周りを囲んでいた車が4台ともなくなり、「おい! 一体何が……?」とジンが困惑していた。


「お兄様がいらっしゃいました」


「そういうことか……」


 気が抜けたようにジンは座席の背に背中を預け、車の速度を徐々に落とした。


「とりあえず、さっきの予定通りに左へ入る道に移動して、適当な場所で止まってください。1度お兄様と打ち合わせをしないと、このままでは『誘拐』と誤解されたままになってしまいます」


「分かった。あんなのと『やり合う』のはゴメンだ」




*****



「お兄様!」


 ジンの車から降りた私は、お兄様の元へと駆け寄った。


「迎えに来た」


「ありがとうございます」


「あの車、ロークスのじゃないよな? でも、その様子だと連れ去られたってワケじゃなさそうだね」


「はい。実はジンとテスを昨夜教えた『例の場所』に案内していました」


「事前にコッチに連絡を入れずに?」



 間髪入れずにツッコミが入り、グッと言葉に詰まる。この旅に出てから何度目になるか分からない注意勧告となりそうな気配だ。今もなお、ジンとテスは追われている状況なので、サッサと手短に話を終えたい私は、フィリーオ兄様の手に手を重ね、上目使いで「急でしたので、連絡を入れるタイミングを逃してしまいました。お兄様、ごめんなさい……ゆるして?」と謝った。


「その技は前に聞いてたから、もう騙されないけど……いつもと雰囲気が違うから調子が狂う」


 お兄様は「今回は騙されてあげるよ」と、目を細めて笑いながら言い、私のインカムマイクをケースから取り出した。そして、私のストレートにした横髪を指先で耳にかけ、インカムをつけてくれると同時に、お兄様の顔が近づいてきて軽く唇を重ねられた。


「そんなに雰囲気が違いますか?」


 私が聞くと、お兄様が無言で頷く。


「お母様が若い頃にやっていた『柴藤』スタイルです」


 その場でクルッと回って見せた。黒髪のストレートヘアーに、シルバーフレームの眼鏡、首には濃紺のスカーフを巻き、アイボリーのパンツスーツ、足元はヒールブーツという服装だ。


「似合ってる」


「フフッ、ありがとうございます」


「話をつけてくるから、ルナはタンデムの準備をして」


 お兄様はバイクのキーを手渡すと、ジンの車へと行ってしまった。


 ――なんとか最大の難関を切り抜けた!


 注意勧告の短縮に成功したのは、この変装のおかげだ。時々こうやって雰囲気を変えるということも、対お兄様に有効な手段ということを今回の件で学んだ。ジンとの商談で受け取ったデータチップのこともあり、気分が弾む。上機嫌な私は防弾チョッキやプロテクタージャケットを取り出し、タンデムの準備を始めた。

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