特殊な送迎1
荒い運転に慣れてきた頃に、道路周辺の異変に気がついた。前後左右の車輌がダンダン近づいている気がする。そんなに車間距離を縮めなくてはならないほど混雑していないので、明らかに挙動がおかしい。しかも右隣を走る車は大型トラックだ。
「囲まれてるかもしれないです」
「あぁ、そうみたいだな」
「真ん中の車線をできる限り走り続けてください。どちらかに寄ると、相手の車に1台余裕ができ、さらにコチラが追い詰められてしまいます」
「分かった」
「あと、もう少し早く走れませんか?」
「これ以上か!? ギリギリだぞ?」
「……諜報員の車なのに、リミッターを外してないのですか?」
すると、ジンがギョッとしたように「そんなことするワケないだろ!」と前を睨んだまま叫ぶ。
「そうですか、それなら仕方ないです」
普通は万が一のために改造して車輌性能をマックスまで上げ、そのマックスの状態の最大速度でも運転できるように訓練するものだと思っていた。
――お兄様が特殊なのかしら?
車のスピードはこれ以上期待できないとなると、この状況を打破する方法として、速さで切り抜けるのは無理そうだ。他の方法を急いで考える。
「それでは、この先10キロメートル前方に左に入る道があります。その1キロメートル前ぐらいで私が合図しますので、バンドルを固定したままエンジンブレーキでスピードを落として、後ろの車に接触させ、前方と左右の車を引き離してください。できた隙間から脱出し、逆走して左の道へと入ります」
「そりゃ無理だろ!?」
「この状況で、他に方法があるのでしたらどうぞ」
「……クソッ!」
ジンが悪態つく。他に思いつく方法がないということだ。私も前後左右の車輌を確認しながら、そのタイミングを待つ。先程よりさらに車間距離を詰められていく。後ろと左右から煽られていて、精神的な圧迫を酷く感じる。
左に入る道への分岐点が見えてきた。車内に緊張感が走る。
しかし、ジンへの合図をする前に、急に左を並走していた車が『バンッ』という破裂音と共に後方へと視界から消えた。
――え?
左後ろを見ると、すぐ後ろに迫っていた車も巻き込み、一緒にスピンしながら、壁に激突して煙を出している。
――どういうこと!?
右側の大型トラックも後方へと流れると同時に、その影から見覚えのあるバイクに乗った人影が見えた。
――お兄様!
私達の行く手を遮ろうとするのは、あとこの車の前を走る車輌だけだ。
「左車線に移動してください」
私の言葉に頷いて、ジンは車をグラッと急激に車線変更させた。お兄様のバイクは、さらに加速し、さっきまで私達の前を走っていた車の影に入る。その途端、また大きな破裂音がし、車体がガクンと右に傾いてスピードが極端に落ちた。
――もしかして、タイヤをパンクさせてる?
最後の車輌から出た白い煙がこちらに流れてくる。その煙を抜けると、右前方にフィリーオ兄様のバイクが見えた。




