諜報員 ジンとの接触2
「ルナさん、待ってください! これ以上、兄さんに注意されるようなことを増やすつもりですか!?」
時間が限られているため、早足で進む私の隣にカナルが走ってきた。
「お兄様が戻る前に私達が戻れば問題ないです。もし私達の方が遅くなったとしても、先ほどの件の『お叱り』が終わってないので、どうせ叱られるなら一回で纏めての方が、2回に小分けで叱られるよりも若干短めです」
「妙に合理的で、叱られ馴れている気がする……」
「お兄様に愛されてますから、心配かけるようなことをして叱られるのは仕方ないです」
「確かにそうですけどね!? 普通は自分で言わないことですよ!?」
すかさずカナルが勢いよくツッコミを入れてきた。自分はまるで関係ないという感じだ。まったくカナルは気づいていないようなので、「お兄様はカナルさんのことも気にかけてますから、たぶん一緒に叱られますよ?」と指摘すると、「うっ」とカナルが言葉に詰まる。
「……叱られる覚悟をしておきます」
カナルが複雑そうな表情になった。
「それは良いとして、さっきの落とし穴ですが」
「ジンの仕掛けた罠ですよね? あの洞窟の地面をボクの体重で踏み抜くことができるなんてオカシイ」
「ええ、それに子供が落ちたら確実にケガする状況でした。あの穴は、ケガした子供を抱えて登るには難しいですし、大人でも事前準備をしておかないと出てこれないです」
「ココに兄さんとルナさんが来ると見越して罠を張った……ってことでしょうか」
「たぶん、そういうことだと思います。上陸ポイントを見張っているだけじゃ、見過ごす可能性があるから」
「抜かりないですね」
私達は下に位置する二番目の滝壺の前を通り抜けると会話をやめた。そして、一筋縄ではいかないジンと会うため、さらに先を急いだ。
*****
滝壺から流れる水と海から寄せてくる波がぶつかり、ユラユラと揺れている岩場が見えてきた。その草木の茂る岩場に、立っているジンの後ろ姿を見つけた。
「お嬢さんが一人で来る場所じゃないぞ?」
カナルを離れた場所に置き、私はそのままジンがいる場所へ真っ直ぐ進むと、私の気配をジンが察知した。
「……ドアーズヴィラリゾートの執事が来る場所でもないですよ? それとも、リゾートスタッフは辞めたのですか?」
「口が達者だな」
「そうですか?」
「今日はいつも一緒にいる『お兄様』は、いないのか?」
「お兄様は事故に巻き込まれて長期入院中ですよ? お兄様は病弱なので、ずっと病院から出られないです。当然あなたなら知っていることかと」
「お嬢さんも入院中ってことだと思ってたが?」
「私は一時退院で、療養でココに来てるんです。あなたは何しにココへ? 遺跡や環境調査って感じではないですよね? 民間所有の土地に無断で侵入のうえ、洞窟の破壊行為はやり過ぎですよ?」
「…………」
ジンは黙ったまま、余裕の笑みを見せる。何かオカシイ。まだ罠があるということだろうか。その表情からは読み取れない。
「まぁ、いい。ココでの用は済んだ。もしかしたら、また会うかもな?」
そう言って、ジンはエンジン付きのインフレータブルボートへと歩き出す。
その時、大量の黒蝶が私の背後からジンの方へ飛んでいく。蝶の大群は、ジンが乗ろうとしたボートの上を勢いよく通り過ぎ、そこからバサバサと天空へ舞い上がって隣の島の木々の中へと消えた。
ジンが「なんなんだ?」とボヤキながら、首もとを手で押さえ、ボートへと乗り込んだ。ジェット音を響かせながら、ジンが『天使の虹』の島から遠ざかっていく。
ジンを見送った私はカナルの元へ戻り、辺りを舞う蝶を見ながら「発信器をつけるには、派手すぎじゃないですか?」と一言文句を言った。
「そうですか? でも発信器を気づかれないように一瞬で体内に埋め込むには、この方法が一番です」
「埋め込んだんですか!?」
「やるなら徹底してやる主義なので」
カナルが笑う。『お兄様のことになると……』と、私のことを言うカナルだって他人のことを言えないではないかと密かに思った。




