諜報員 ジンとの接触1
私達3人は、2つある滝壺のうち、上に位置する滝壺の周辺まで来た。辺りに滝が流れ落ちる轟音が響いており、さらにその滝壺から下へと水が流れ落ちているようだ。さらに下に位置する滝壺の近くには海から上陸できる場所があるのだが、下からココは見えない。
お兄様はナビゲーターパネルで『天使の虹』の出現ポイントを確認し、双眼鏡で天空と滝壺の水面を観察し始めた。私とカナルは、昨日ジンを見かけた場所へと向かった。
私の前を歩くカナルが、滝壺の奥にある洞窟の手前で立ち止まり、「足跡がある」と、しゃがみこむ。
「ワザと……ですね?」
「おそらく」
カナルが頷く。
昨日、この辺でジンを見かけた。諜報員がワザワザ足跡を残すような場合は、『何かある』と疑わざる負えない。
「ジンは洞窟内にいるってことでしょうか?」
「どうでしょうか。もし洞窟内で脱出口が1つしかなかったら、そこでの待機は、自分の首を締めるようなものですので」
「もしジンがいたら、ココの他にも出入口があるってことですね?」
「はい」
カナルが洞窟の入口まで行くと、ペンライトを取り出して中をサッと照らした。
「とりあえず、入口付近にヒトはいないみたいですね」
そう言いながら、カナルが中へと踏み込んだ。と、同時にカナルの足元が崩れ、ガクッとカナルの体が傾いた。
「カナル!」
慌ててカナルの腕を掴むが引きずられる。
――落ちる! またこのパターン!?
ギュッと目を閉じて衝撃に備える覚悟を決めたが、落下せずにグンッと体が引っ張られる感じがした。スッと私の横から腕が伸び、カナルも同時に引っ張り上げられた。
「……助かりました」
「ありがとうございます、お兄様」
私とカナルは気が抜けて、洞窟の手前に広がる岩場にペタリと寝転がる。立ったままフィリーオ兄様が「無事で良かったよ。まったく、二人とも……」と、説教モードに入りかけ、途中で言葉が途切れた。寝転がる私達の間を通り抜け、崩れた洞窟の下を覗いている。
「お兄様?」
「二人とも、そこで待機だ」
私達にそう言い残して、お兄様が崩れた穴へと飛び降りた。
「え!? お兄様?」
カナルが踏み抜いて出来た穴から下を見ると、二重底のように、そこに空間が広がっていた。私達のいる真下にも岩場があって、滝側から光が射し込んで明るいようだが、ココからだと分からない。その岩場と反対の方は暗い。よく見てみると、光を反射し、七色の粘度のある液体が地面に流れている。お兄様は、その奥へと進んだようだ。ジンはいない。
「カナルさん、待機だそうです」
「はい、聞いてました」
「チャンスですよ?」
「はい!?」
「だから、今のうちにジンと接触するんです」
「……本気ですか?」
私は立ち上がり、「本気です!」と宣言した。そして、この島に海から上陸できる場所へと歩き出した。




