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島渡り

 『天使の虹』の島には、海からではなく隣の島から上陸することになった。近海で客船が通ることもあり、小型の船であっても停泊していると目立つ。そこで、テストプラントがあった島との間が50センチぐらいしか離れていない場所があり、そこに板を渡して行くことにした。お兄様なら板がなくても、軽くジャンプすれば行ける距離だけど、私とカナルは難しい。

 その場所は崖の上に位置し、木や岩で死角となっていて、海や島の下島からは見えないので、板を渡しても気づかれないハズだ。島に入るときはフィリーオ兄様が一緒のため、ジンとの接触を避けたい私達にとって、これがベストな方法だと判断した。ジンとの接触は、島に入ってから試みる方が、まだ身動きが取れて安全だ。



*****



「ルナさん、『ジンに会ったときは、自分に任せておけばいい』って言ってましたが、作戦とかあるんですか?」


 テストプラントの島の隣に渡るポイントへ向かって、お兄様の後ろを歩いていると、私の背後から小声でカナルが聞いてきた。


「ありますよ?」


「まさか作戦って、前にルナさんが言っていた『上目づかいで可愛く言う』って方法じゃ……」


 疑うカナルに「失礼です!」と、睨んだ。


「あれはフィリーオ兄様しか通用しない必殺技ですから、他のヒトには使えません。使うのは、お父様直伝のロークスの交渉術です」


「それを聞いて少し安心しました。……それにしても、随分ニッチな必殺技で、まったく使えないですね」


「私のことをよりも、カナルさんの方は大丈夫ですか? ちゃんと発信器を付けられるか心配です。お兄様と違って、ジンは子供だからと容赦はしないですよ?」


「分かってます。ジンは諜報員ですから」


 淡々と答えるカナルとの会話を終えたところで、「二人とも、コッチ」と、岩場の分かれ道の場所で先を行くフィリーオ兄様に呼ばれた。



*****



「ここを渡るのですか!?」


 崖の上に立ち、お兄様が向こうの島の平らな岩場に持ってきた板を設置した。柵はない。


「そうですけど……顔が白くなってますよ? ルナさん」


 カナルは、当然『渡るのは平気』というように答える。


 ――どうしよう。かなり恐い


「私が先に行ってもいいですか?」


 最後は絶対に嫌だ。置き去りにされる感じがする。渡るなら、自分の意志でタイミングを決めることができる一番最初がいい。

 私は板の手前まで来ると、深呼吸して目を閉じ、片足を板に乗せた。二歩目を踏み出そうとしたところで、お兄様が「ルナ、目を閉じて渡ろうとしてる?」とツッコミが入る。


「お客さんもいないのに? ルナさん、そんなサービスいらないですよ。安全第一ですから目を開けて渡ってください」


 お兄様に続き、カナルが追いうちをかける。


 ――そんな励まし、イラナイ! せっかく勇気を出したのに、しぼむ!


 足が前に出ない。立ち止まったままでいる私に、「ルナ、手伝おうか?」と、お兄様が言ってくれた。


「……お願いします」


 たった50センチなので、計画したときは簡単に渡れると思っていた。実際、目の前に立つとイメージと違った。

 お兄様に抱き上げられ、アッサリと板を使わずに向こう側に渡れた。


「カナルは?」


「ボクは大丈夫です」


 お兄様の申し出を断り、サッサとなんなくカナルが板を渡ってきた。


「板は、どうしますか?」


「取り外そう」


 カナルが板を持ち、『天使の虹』の島側の岩場に隠した。


「お兄様、もう大丈夫ですから……」


 抱き上げらたままだったので、カナルに見られてることもあって恥ずかしくなった。「あぁ、ごめん」と、私を降ろして頭を撫でてくれた。


「それじゃあ、行きましょう」


 カナルが先頭に立ち、滝のある場所の方向へ足を向けた。カナルの後ろにフィリーオ兄様が続く。お兄様の背中を見て、ふと疑問に思ったことを口にした。


「お兄様、なぜ板を設置したのですか? 私達は子供ですから、抱き上げて渡れば簡単ですよね?」


「確かにルナやカナルは子供だけど、子供にも子供なりの考えやプライドがあるだろ?」


 理由を聞き、予想外の答えに驚いた。


「お兄様は……やっぱりステキなヒトです!」


 お兄様の腕に抱きついた。




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