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問われる観察力

 お兄様の作業が終わると同時に、休憩時間も終わった。

 フィリーオ兄様が壊して開けた空気孔の穴は、シートで覆ったうえ、大きめな石をのせて塞ぎ、誰かが来ても分からないようにしておく。


「それじゃあ、行きましょう。カナルさんは、私の後ろを歩いてくださいね?」


 さっきはカナルが先頭を歩き、私とフィリーオ兄様の順だったが、歩く順番の変更を申し出る。私を巻き込んで穴に落ちたこともあり、しぶしぶカナルは「わかりました」と承諾した。


 足場の悪さは船旅で訪れた遺跡への道の比ではない。穴に落ちないよう、岩肌を這っている木を利用しながら慎重に登った。

 やがて隣の島の半分を見渡せる場所まできた。海側からは見えなかったが、こちら側は崖になっていて、滝が流れ落ちている。滝の周りには霧がウッスラとかかっていた。

 双眼鏡で『天使の虹』が出現した地点をサッと見た。さすがに怪しげな機械はない。気になる所は滝の側にある小さな空洞ぐらいだ。その空洞を見ようと双眼鏡の倍率を上げると、黒い影が動いた。

 カナルが来たので、「『天使の虹』が出現した付近に何かいるみたいです」と伝える。


 さらに双眼鏡の倍率を上げると、その黒い影がハッキリと見えた。


 ――あれは……ヒト?


 さらに黒い影が動き、光があたる。


 ――まさか……ジン!?


 カナルが私の側に来て「『キメラの光』ですか?」と聞いてきたので、「いえ、ジンドゥル・ヒュームがいます」と、お兄様に聞こえないよう早口で囁いた。


「え? なぜココに……」


「静かに。お兄様に聞かれないようにしてください。ジンは、ロークスに目をつけている諜報員です。お兄様の生体データを狙ってますから接触したらマズイのです。あと、お兄様にも知られないように。私達を巻き込まないように単独行動してしまいますから」


「ジンは、対キメラで……」


 カナルが声を抑え、『味方だったハズ』と言いかけるが、「対キメラでは、利害が一致してるから共闘しただけです」と、途中で言葉を被せた。そして、双眼鏡をカナルに手渡し、「生体内スキャンの簡易装置を持ってます」と教えた。カナルは双眼鏡でジンの服装や装備を観察したようで、しばらく考え込む。


「執事にしては、対キメラの戦い方が慣れていた記憶があります。セキュリティサービスの経験があるからだと思っていた。今日は、いったん引き揚げた方が良さそうですね」


「はい。隣の島に行くのは、ジンがいない時がいいです」


 お互いに頷いた私とカナルは、フィリーオ兄様の元へ行き、子供特有の『体力の限界』を二人で全力で訴えて、この島からサッサと出た。



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