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島での調査2

 枝木だらけのトンネルを歩いていると、唐突にカナルが私に「ルナさん……フィリーオ兄さんには、どこまで話したんですか?」と聞いてきた。


「……記憶にないですけど、やっぱり私がお兄様に『カナルさんから教えて貰った』って話したんですよね?」


「それ以外ないですよ、少なくともキメラの研究開始の情報は」


「そうですよねぇ……記憶にないってことは、寝ぼけているときの可能性がありますね」


「……ルナさん、そんなにボロが出るなら、兄さんに添い寝をやめるよう進言してください」


「私が?」


「『ルナさんが』です。今までルナさんや兄さんの家族を含め、誰も止めるヒトがいなかったのが不思議です」


「添い寝を急にやめるなんて、違和感ありすぎます。小さい頃からずっとなので、考えたことなかったですし……」


「ナンテコトダ……なぜこんなにも歴史がネジ曲がってるんだ!」


 私の前を歩いていたカナルが、急に立ち止まるのでカナルの背後にぶつかった。


「急に立ち止まらないでください。それに、カナルさんが認識している歴史なんてスカスカじゃないですか」


「しかも、こんな暴言をサラッと言う10歳の可愛いげない子供が……」


「『兄さんの恋人なんて!』……っていうんですよね? わかってます」


 カナルが私の顔をジト目で見たあと、目をそらしながらタメ息をついて、再び歩き出す。


「カナルさん、そう言えば、例の歴史書(ゲーム)内容で間違いを見つけましたよ?」


「間違い?」


「はい、お兄様はキメラ研究には関わっていないです」


「兄さんが関わるのは、これからですよ!?」


「いいえ。もう、その心配はいらないです」


 私の方に振り向いたカナルが、ますます深く眉間にシワを刻む。


「お兄様と一緒にいて、歴史書にない内容が分かってきました。一昨日、お兄様は独りでLISSに行こうとしてました。もしも私が行かなかったら、おそらく内通者によりキメラ研究推進派に掴まり、厳しい監視下に置かれ、最後の砦――キメラ研究の重要な鍵となる内容を執拗に尋問されてたと思います」


「キメラ研究の鍵となる内容?」


「ええ。私も内容は詳しく知りませんが、お兄様やおじ様、そして私の両親の話やLISSでの状況から、そう判断できます」


「兄さんは、鍵となる研究内容を漏らさないように3年間は耐えたけど、何かをキッカケに推進派に知られることになったってことですか?」


 聞き返したカナルに対し頷き、「そのキッカケが、恋人との別れだと思います」と補足した。


「…………」


 カナルが俯いたまま無言になる。そして、「ルナさんは……金融関係のエキスパートのカレンさんや、写真家の奈月さんや、画家でナイフ使いのナギラさんと違って、子供だから……」と、ポツリポツリ小さな声で呟く。


「確かにそうですね、お母様や奈月さん、ナギラさんの3人と違って、そういう意味では何もフィリーオ兄様の役には立たないです」


「でも……、兄さんを自由にしたのは、いろんな事ができる3人じゃなくて……」


 俯いたカナルの瞳から流れた涙が粒となって落ち、パタパタと焦げ茶色の土の色をより濃い色へ変えていく。


「何もできないルナさんだった……」


「『とりあえずは』です。まだ、キメラ研究のフィールドテスト状況の調査中ですから」


 カナルの気持ちを察すると、「失礼な!」と文句を言うことはできず、笑って「早く行きましょう」と、カナルに前へ進むよう、進行方向を指して促すことしかできなかった。

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