新たな旅立ち1
「二人とも起きて」という優しい声を聞き、目を開けると、お母様がいた。
「検証結果は、どうでした?」
「ルナの言うとおりだったわ。気象現象と思っていた『天使の虹』が見られた場所へのヒトの出入りをたどれば、関わっているメンバーは簡単に割り出せそう。ただ……」
お母様はフィリーオ兄様の質問に答えていたが、言葉を濁す。
「何か問題が?」
「どこまでフィールドテストが進んでいるかは、実際に現場に行かないと詳細は掴めないので、ヘタに動けないとレンが……」
「確かに……。結局は、関わったメンバーを捕まえるだけでなく、研究の取り止めとサンプルの廃棄処理もしないと意味がない。しかも父達が動けば目立つし、ヤツラに逃げる隙を与えることになる」
「お母様、それなら私達が行きます。お兄様なら調査できますし」
お母様とフィリーオ兄様の会話を黙って聞いてた私が口を挟むと、「琉梛」と、お母様に呆れたようすで言われた。
「私も一緒にいれば怪しまれずにフィリーオ兄様も調査できますし、より確実に行動しやすくするために、カナル・ライナーに協力してもらおうと思います」
「カナル?」
「はい、彼はイリュージョニストで世界中を回ってますから」
ニッコリと私は笑顔を見せた。
*****
「……ってことなので、途中で合流しますからヨロシクお願いしますね?」
『ルナさん! そういう重要なことは勝手に決めないでください!』
電話の向こうで抗議するカナルに、「決めてないですよ? 今、事前にお伺いしてます」と、伝えた。
『いや、どう考えても決定事項でしょ! ボクがフィリーオ兄さんに関わることは断れないって足元見て言ってますよね!?』
「気のせいです」
『しかも、こんな夜中に電話してくるし……』
「お兄様の緊急事態なので」
『相変わらず、フィリーオ兄さんのことになると……』
まったく、とかブツブツ言っているが、明け方には行動するので、あえて聞き流す。
「それで、合流してもいいですよね? カナルさんには、私の魂を過去のループから現世のループに連れてきた責任をとってもらわないと困ります」
切り札は最後に使うと有効だ。私がサラッと話してみると、カナルがウグッと喉を鳴らす。
『なんで……』
「以前お話をしたとき、過去と未来のループの間を往き来しているのは、カナルさんしかいないようでした。他の方達の魂は、その時代だけをひたすら廻っている。そんな中、偶然、過去の時代にカナルさんが作った未来の歴史書を最後までプレイした魂が過去のループから現世のループに転生する確率なんて、ほぼ皆無ですので」
『……勘のいいヒトはキライだ』
カナルが悔しそうな声でそう言った。
「お褒めの言葉をありがとうございます。……で、どうなんですか?」
『キャラバンのルートを記した地図と日程表を送ります』
「フフ……カナルさん、ありがとうございます」
カナルとの交渉が成立し、さっそく私はソファに座って話し合っているフィリーオ兄様とお母様に報告した。




