キメラ研究へのフラグ ケンタウロスγ
「お兄様、お願いがあります!」
学生寮まで戻って寮のエントランスでお兄様と向き合うなり、前のめり気味に懇願した。
「今から明日まで、キャンパスと寮以外へは外出を極力控えていただきたいのです」
少し沈黙が流れたあと、お兄様が「ああ!」と納得したような相づちを打ち、
「ヤキモチ、かわいいね。大丈夫だよ、ルナと一緒にいるとき以外は、あの画家のアトリエには行かないから。絵のモデルもなる気はないし」
「…………」
お兄様は大変な勘違いをされている気がしないでもない。会話が噛み合ってないように感じる。
しかし、画家ナギラとの繋がりをココでなんとかしないとイケナイので、『アトリエに行かない』という約束はしてくれたのは好都合だ。
「お兄様、約束ですよ? 絶対、守ってくださいね!」
「わかった」
フィリーオ兄様は笑顔で頷きながら私の頭を撫で、そのまま顔を近づけて私の前髪にキスをしてくれた。『確かに約束した』ということを示すように。
*****
私は帰宅すると、すぐにロークスの専門調査チームにお願いし、画家ナギラの作風が好きそうなスポンサーを探した。受賞歴のない若き芸術家を育ててくれる人を探すのは大変だったようだが、なんとかなった。
私の要望通りに国外のスポンサーを見つけてきたロークス専門調査チームは、さすがだ。すぐに画家ナギラには、スポンサーの元へ行くよう手配し、お兄様のキャンパスの近くにあるアトリエから引っ越してもらった。
ケンタウロスのモデルのデッサンが完成する前に、全てが終わった。
未完成のデッサン画は、市場に出回ってフィリーオ兄様の手に入ることを恐れ、私が引き取った。
『ケンタウロスフラグ』、なかなかの長期戦だった。疲れた……。