眠たいときの対処方法
あの写真の検証と、それに伴う情報収集は、ロークスの調査専門チームならすぐに終わるはずだ。結論が出ればお母様が教えてくれる。それまで待つことになったが、静かで必要最低限しかない空間は退屈で、睡魔が私を襲う。お兄様は、ずっと無言で何か考えている様子のため、話しかけづらい。それに、いろいろありすぎて疲れてしまい、緊張感が抜けた今では話そうにも思考が纏まらない。
「ルナ、眠たいならシャワー浴びておいで」
お兄様の声が遠くで聞こえるが、瞼が重くて目を開けることができない。
「ルナ」
お兄様がソファに座る私の前で止まる気配がした。私の顔を撫で上げ、顔にかかる髪を耳にかける指先を感じる。
「また僕がベッドに運んで体を拭かないとダメか……」
耳元で独り言のように言われた瞬間、目が覚め、私はソファから反射的に立ち上がった。
「お、起きます! 目が覚めました!」とアタフタしながら、私は慌ててシャワールームに駆け込んだ。危うく、また『悶絶一人反省会』をすることになるところだった。
――あの写真の検証結果が出るまでは、お兄様はココにいるハズだから置いていかれることはない
自分に言い聞かせて、「シャワーを浴びている間に、どこかへ行ってしまうかも」という不安を和らげ、高鳴る心臓を落ち着かせた。
*****
「まだ答えが出るまでに時間がかかるらしい」
シャワールームから出ると、お母様から連絡があったようで、お兄様がそう教えてくれた。「少し横になるといい」とベッドに入るように促されたが、断固拒否した。
「私が寝ているときに、お兄様は黙っていなくなりそうです」
「もしかして信用なくした? さっき家の前で置き去りにしようとしたから」
お兄様は苦笑いしながら、服の裾を掴む私の手に手を重ねる。肯定も否定もせずに、じっと見上げていると、「大丈夫、もうそういうことはしないから」と私の頭にポンと反対の手が乗せられた。
「本当に?」
お兄様は頷き、「泣いてると思って油断していると驚くような行動ばかりするから」と言う。
「それは、どういうことですか?」
「今は泣いたり不安そうにしたりしてるけど、明日になれば気持ちを切り替えて両親の許可を正攻法で取ったうえ、別ルートで先回りする予定なんじゃないか? 涼しげな顔で『遅かったですね』とか言われそうだよ」
「…………」
思わぬ指摘に目を見開きスッと視線をそらすと、お兄様は「やっぱりそうだったか」と、自分の前髪をかきあげた。
「それで、どこへ行こうとしてたんだ?」
「お兄様なら『天使の虹』が見えた離島へ行くかと思って……違いますか?」
「……当たりだ」
「なんで……」
「なぜ分かったって? 前例があるだろ?」
お兄様の言葉を理解できずにいると、「今日、LISSで」と言われた。
――そうでした
何も言えない。そんな私の様子を見てクスリと笑ったフィリーオ兄様は、私の手を引いてベッドに入るように言う。
仕方なくベッドに入った私が「お兄様」と呟いて、その場を離れようとしたフィリーオ兄様の手を離さずにいると、目元にキスをしてくれた。そして、「一緒に寝るから、シャワー浴びてくるだけだ」と言われたため、手を離すしかなかった。
*****
「ルナ、『異種間掛け合わせ実験』を始めた話は、どこで聞いた?」
あたたかいフィリーオ兄様の温もりを感じ、ベッドの中でウトウトしながら、「ヒミツです。私にも独自の情報源があるんです……」と囁いた。
「そうなんだ」
「はい……でも、お兄様を崇め奉っているヒトなので、話しても大丈夫そうですが、一応確認しないと」
「あー、今ので分かった気がする」
「そうですか……」
「おやすみ、ルナ」
寝ぼけているとき、重要な質問については答えず保留することをウッカリ忘れていた。お兄様が相手だと私も油断してしまうことが多いことを、のちのち反省することとなった。




