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未来転生~令嬢、前世で一番苦手なゲームの世界で生きぬく!  作者: 芝高ゆかや
キメラ調査編 サバンナ・ロークス邸
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帰る場所と運命を変える2枚の写真

 フィリーオ兄様はバイクを休むことなく走らせる。そして、私を乗せたまま、バイクはサバンナのロークスの邸宅――私の新しい引っ越し先の家を囲む門の前で止まった。お兄様はヘルメットを脱ぐと、タンデムベルトを外して私をバイクから降ろした。


「お兄様!」


 まさか自分だけバイクから降ろされてしまうとは思わず、ヘルメットを脱ぐと、抗議の声を上げた。

「ゴタゴタが片付いたら、また会えるから」と、お兄様は勝手なことを言う。それなら初めからLISSに私を置き去りすればいいのに。

 会える日を約束できないまま、ひたすら待つなんて私の性格に合わない。悲しみと寂しさがこみ上げ、涙が溢れた。お兄様の服の裾を掴むが、お兄様の手が重なってスッと外される。

 すると、「二人とも、お帰りなさい。待ってたわ」という、泣いてる私の背後から、久しぶりに聞いたお母様の声がした。


「もうすぐ暗くなるから、早く家に入って」


「いや、僕は……」


「フィル、あなたもよ。レンから預かっている物があるから」


「父から?」


 お母様とフィリーオ兄様のやり取りを聞いて、ホッとする。このままだと、家の前で置き去りにされるところだった。

 お母様に促され、私達はエントランスポーチにバイクを止め、家に入った。



*****



 私達は、滅多に使うことのないシークレットルームに入った。部屋の中央にソファが置かれており、お兄様が座ると、向かい側のソファに私とお母様が座った。お母様はサイドテーブルから1通の封筒を取り出し、ペーパーナイフと一緒に、お兄様へ差し出した。

 お兄様は、すぐに開封し、手紙に目を通した。


「ありがとうございます。今回の件、こういう結果になることは想定済みで動いてくださってたんですね? 伯父さんには迷惑をかけてしまってますが……」


 フィリーオ兄様は手紙を自分の服にしまいながら、お母様に申し訳なさそうにお礼を言う。


「可愛い甥なんだから、このぐらいはね? 今、LISSで後処理をしてるわ。きっと、あなたは今回の事件で大ケガをして長期入院ということになるわね」


「はい、父からの手紙にも、そのように書いてありました。それと、これからの生活と注意点――特に、例のヤツラから逃れるようにとも」


「そう……、あの研究をしている人達が、ハッキリと誰か分からない現状だから、解決するまで何年かかるか分からないけど、それまで仕方ないわよね。瑠梛も寂しい思いをするかもしれないけれど……」


 お母様は私の肩を抱き寄せて、そう言った。


 ――このままでは、お兄様と一生会えなくなる


 ――言うなら今しかない


 ようやく涙が止まり、まともに話せるようになった私は、「お母様、そのことでお話があります」と告げた。


「ルナ!」


 お兄様が咎めるが、無視をして言葉を続けた。


「先ほどまでフィリーオ兄様と一緒に私もLISSに……」


 私の言葉のせいで、痛いほど広い部屋の中が静かになる。お兄様は深い溜め息をし、お母様は私の肩を寄せたまま、私の顔をじっと見つめている。


「迎えに行った車に瑠梛の荷物だけしかなかったから、どこかへ行ってたのは知ってたわ。だけど、フィル達について、ツリーハウスを見に行ったとばかり思ってたのよ?」


「お母様……ごめんなさい」


「やってしまったことは、取り返しがつかないわ。とりあえず、お父様に報告します。あとは、あなたも長期療養ってことでいいわね?」


「はい」


 素直に私は頷いた。悪い知らせほど隠さずに先に言わないと、あとあと面倒なことになるのは経験済みだ。


「お母様、私も……フィリーオ兄様と一緒に」


 しかし、お母様は「ダメです。あなたは、ココの家にいないと」て、許してはくれない。やはり私が子供だからだ。


「お母様、今のままでは相手側の方は一枚上手で、こちらは追い詰められてしまいます。相手は、私達を知って対策がしやすいですが、私達は相手が誰なのかすら分からないのですよね?」


「そうね。でも、あなたのお父様やレンがやってますから、任せておきなさい?」と、優しく諭された。


「どんなに私の大切な人達がヒドイ状況でも、黙って見てなくてはダメですか? 相手側は、もうフィールドテストの実験をやっていて、あとはフィリーオ兄様の研究データさえあれば完成する状況でも?」


「どういうことだ?」


 今まで黙って聞いてたフィリーオ兄様が会話に割り込む。フィリーオ兄様に気象現象だと言い張っていたが、これが運命を変える物になると思い、私は2枚の写真を出した。


「桐谷が撮った写真?」


 お兄様の言葉に頷いた私は、説明を続ける。


「はい、1枚は海の上空で発生したもので、もう一方のは島の上空で発生したものです。どちらも……例の研究……、キメラが発生した瞬間ですが、海の方は成功していて、島の方は何らかの原因で失敗したものかと。実際に『天使の虹』は、ここ数年で見られるようになった現象ですし、キメラ発生の特徴である『キメラの光』は、ここ数日で私が何回か目視で確認しました」


 お兄様が2枚の写真を手にして、「気象現象ではなく、実験で生じた現象……なのか? それが本当なら、この現象が起きている場所を探れば、相手が誰なのかも割り出すヒントになるな」と言いながら、見比べる。


「はい。今の段階だと、地形やその時の天気に左右されて安定してはいないようですから、見つけやすいと思います」


 お母様も2枚の写真を見て、考えている様子だ。


「お母様、このままだと数年後には、世界中にキメラ達が拡散されてしまいます。たとえフィリーオ兄様の研究データがなくても、別のそれに代わるものさえ見つかれば、関係なくなりますし」


 私の説明がうまく二人に伝わったか分からない。お母様は溜め息をついたあと、「とにかく今日は二人ともココに泊まりなさいね? この写真は預かります。あと、今の話は私では判断できないわ。お父様とレンに、これから相談します」と、テキパキ話し、写真を持ってどこかへ行ってしまった。



 ――あの2枚の写真が運命を変えると信じたい



 膝の上で組む両手にチカラを込めて、そう願った。



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