罠と脱出
「バイク?」
「父が用意してくれた脱出用だ」
「おじ様が?」
フィリーオ兄様は頷きながら私を抱き上げ、バイクの後ろに座らせてくれた。お兄様もバイクに乗り、タンデムベルトをしっかり巻いて、私とお兄様を繋ぐ。
――おじ様は……たぶん信用できる
お兄様の研究がキメラ研究のキーとなることを知っていて、実験データを全て持たせたフィリーオ兄様をロークスのキメラ研究推進派から逃がそうとしている。
ロークスは親戚が多いし、一枚岩ではない。ロークスの中で、お兄様の味方になって、一番に考えてくれるヒトがいるのは心強い。
「ルナ」
お兄様からヘルメットを渡された瞬間、遠くでドォーンという音と地響きが聞こえた。
「来たか」
「今のは?」
「重火器を研究施設で使ったヤツがいたみたいだ」
「……それって、先ほど言ってた『逃げる時間を作るための大したことない爆弾』ですか?」
「そうだね」
肯定しながら、お兄様はバイクのエンジンをかけるが、エンジン音がなく静かだ。おそらく、ハイブリッド仕様となっていて、気づかれずに脱出するには最適だ。
「お兄様、明らかに大したことある爆発音が聞こえました」
「火花を散らさなきゃ大したことない爆弾だ」
お兄様がバイク仕様の装備に整えながら、「まさか薬品がそこら中にある研究施設で、静電気さえ危険なのに、火花散らすような物を使うヤツがいるとは。常識的に考えて、そんなヤツはいないと思ったから驚いてる」と、言い訳をする。
――なにその付帯条件! っていうか、絶対、狙ってやってる!
――薬品とか何もない廊下でトラップが仕掛けられてるなんて普通は考えない
そうココロの中で思いながら、ヘルメットを被ると、お兄様が確認をした。
「行くよ?」
「はい」
バイクが走り出すと同時に、お兄様はジェルの入ったビンを床に転がした。建屋の地下からスピードを上げて外に出る。かなり離れた場所で止まると、お兄様はホルダーからコルト45口径の銃を取りだし、バイクに乗ったまま狙いを定め、建屋へ数発の銃弾を撃ち込んだ。
ドォーンという重低音と共に熱を含む爆風が吹き、火柱が上がる。
「お兄様……」
「時間稼ぎに過ぎない。急ごう」
再びバイクを走らせ、私達はLISSの敷地から脱出した。




