隠せない嘘
「どれが嘘だ? 連絡をしないことか? それとも、そもそも内通者を知らないのか?」
「…………」
「ルナ! 時間がない! 答えろ」
お兄様は私の答え次第では、私を連れて逃げるつもりだ。足手まといになるのに。
「答えられません。早く逃げてください、お願い」
目をギュッと閉じたまま最後になるであろう「願い」を言った。
「『内通者を知らない』方か……」
「お兄様!」
「ルナ、ここから脱出する」
「ダメです、私は残ります!」
私が掴まっても、お兄様よりは環境はヒドイことにならないハズだ。囮になってフィリーオ兄様の逃げる時間を少しでも作った方が得策だろう。
「時間がないんだ、ルナ。一緒にココから脱出するか、一緒に掴まって一生監視下に置かれるかのどっちかだ」
「そんな……ヒドイ選択肢です」
「どうせ渡したデータを返してはくれないんだろ? 10秒以内にどちらか選ぶんだ、ルナ・ロークス」
「……逃げます」
急にこんな決断をさせられるとは思わなかった。しかし、もう決めてしまったことだ。覚悟をするしかない。
お兄様は私の決断を聞くと、デスクの背面板を外した。そこには、防弾チョッキや、銃などが収納されていた。慣れた手つきで、コルト45口径の銃を手にしたフィリーオ兄様は、素早く装弾し、ホルダーに入れる。そして、私には防弾チョッキを着せてくれた。
「お兄様」
「ルナ、嘘をついた理由はあとで聞くからね?」
そう言いながら、お兄様がジェルの入った入れ物を取り出す。
「はい……」
お兄様は私の頭を撫でると、私の手を引いて通路に出た。
「まだ研究スタッフしかいない。その間に脱出しないと」
そう言いながら、お兄様は途中で何ヵ所かジェルを塗り、どこかへ向かう。
「それは?」
「あまり、近くで呼吸しないように、燃料爆弾だから」
「爆弾っ!? 建物が崩れませんか?」
「逃げる時間を確保するために使うだけだ、大したことない。高い分析機器や、希少なサンプルがある場所は外してるし大丈夫だ」
――そこはヒトじゃないんだ! 機械優先なんだ!
――まぁ、さっきの通信の様子だと、お兄様の仲間も脱出してるわね、きっと
*****
私達は『整備倉庫』と表示された部屋に入った。
「これを使う日は来ないと思ってたんだけどな」
お兄様がそう呟きながら壁にあるパネルを操作し、IDカードをかざした。すると、隣の壁が上部へと静かにゆっくりと収納されていく。
「お兄様、私を好きになったこと、後悔してますか?」
「いや、それはないよ。どうして?」
「こんなことになってしまったので……」
「……とんでもない子を好きになっちゃったとは、さっき少し思ったけどね。でもルナ、君がいなければ、間違いなく僕は内通者の元へ行ってたよ。仲間を確実に逃がすために」
「そんな! そんなことになったら、お兄様は死んでしまいます」
「……ルナは知ってるんだ」
「え?」
「僕が実験体だってこと」
「…………」
「当然か……、君もそうなんだろ? 知識量が通常の10歳児とは違う」
――本当のことを言うべきなのだろうか
言ってしまえば私は楽になるけれど、今の状況だと、余計お兄様は苦しむかもしれない。私は自然の、いわゆる過去から未来に輪廻転生の中で生まれた存在で、お兄様はヒトの手で生まれた存在。
――まだ時期早々だ
「お兄様が……『消えたもう1つの人類』ということは知ってます。その話については、また今度ゆっくり話しましょう?」
私は上がった壁の隙間を潜り抜けた。




