下船
「珍しい」
下船の時間になり、キャビンの扉を開けてくれたフィリーオ兄様が、私の首もとを見て言った。
「……もしかして、お兄様からいただいたチョーカーのことですか?」
内心、ギクリと焦る。あのチョーカーは私のお気に入りで、お兄様から貰ってから毎日身に付けていたから、すぐに違和感を感じたようだ。
「お兄様に着けていただこうと思って」
気が付かれてしまったら仕方がない。今日は、お兄様を尾行するので外していたのだが、ヘタに言い分けして勘づかれるとマズイので、手持ちのカバンからチョーカーを出した。
扉を背中で押さえたまま、お兄様が私の手からチョーカーを取り上げ、後ろを向くように促す。
――なかなか上手くいかない
首の後ろで、パチン、とチョーカーの金具が留まる音を聞き、少しテンションの下がった気持ちをお兄様に悟られないよう、笑顔でお礼を言った。
*****
ロイヤルスウィートキャビンの乗客は、優先的に下船できるので、すでに迎えにきていたロークスの車の前で、たっぷりと桐谷さんと奈月さんに別れの挨拶の時間がとれた。桐谷さんは、気象現象を専門に写真を撮っていくことに決めたようで、また「天使の虹」のような幻想的な珍しいものが撮れたら、見せてくれる約束をしてくれた。このまま、その道へ進めば、写真展を開く日も近いだろう。
「それでは、お兄様、また明日」
「うん」
ロークスの車に乗った私は、窓からフィリーオ兄様に最後の挨拶をし、「お願いします」と、運転手に車を出すようお願いした。
車は、お兄様達を置いて走り出す。港町を抜け、まだ少し賑やかな市街地に入ったところで、作戦を実行することにした。
通常ロークスの民間軍事施設では、そのまま外部の車で敷地付近までなら行くことができるが、敷地内に入るには敷地内専用の車に乗り換える必要があると、前に父から聞いた。乗り換えスポットは一ヶ所だ。セキュリティチェックも何ヵ所かあり、施設に近づくほど厳しくなっていく。だから、なんとしても乗り換えスポットでフィリーオ兄様と合流しないとダメだ。
「すみません、フィリーオ兄様に渡し忘れた預りものがありました。今日、これから先方に渡す予定とのことなので、直接、車をまわしていただけますか?」
「わかりました。どちらへ?」
「L・IS・Sです」
私を乗せた車は、ロークスの邸宅から乗り換えスポットへ行き先を変更した。
━━これで、お兄様より先回りできた
運転手に怪しまれないように何回も言い方をシミュレーションした甲斐があり、第一関門を突破したことに安堵する。私は少し緊張を緩め、流れていく車窓の景色を眺めた。




