空想ではなく幻想的な現象
桐谷さんが「天使の虹」の写真が仕上がったと、オープンデッキまでワザワザ呼びに来てくれた。
見せてもらった写真に、あの瞬間がそのまま切り取られたかのようだった。
――キメラの光に似ているけど、ちゃんとした気象現象っていうのが不思議
ずっと眺めていると、桐谷さんが「あげる」と、モニターに映っているのと同じプリントアウトされた「天使の虹」の写真を私にくれた。
「ありがとうございます!」
「瑠梛さん、フィルの言うとおり、やっぱりこういうの好きなんだね」
気がつかないうちに嬉しさが表情に出てたらしく、奈月さんから指摘が入った。平静さを保とうとするが、意思に反して体がビクリと震えた。
「く、空想や幻想ではなく、実際に起きている現象ですから」
お兄様にはキメラに繋がるようなファンタジーの世界が好きだと悟られてはイケナイので、必死に頭をフル回転させて言葉を探す。
「空想や幻想ではなく、確かにソコにある事象なら……好きなんだ」
「ええ……」
お兄様が確認するように私の言葉を繰り返す。まるで自分に言い聞かせているようだ。私は、お兄様の目をシッカリ見て返事をした。お兄様の正体を知っても、ちゃんと受け入れられるし、絆は揺るがないことを、今は言葉では言えないけれど、視線で伝えたかったから。
「はい、そこ、見つめ合うなら自分達の部屋でやれ」
用は済んだとばかりに桐谷さんの投げやりな言葉とともぬ、私とフィリーオ兄様は、桐谷さんのキャビンから追い出されてしまった。キャビンの前でフィリーオ兄様とお互いに顔を見合せ、笑う。
「キャビンに戻りますか?」
「あぁ、そうだね。シルキッドのサーカスの時間まで、ゆっくり2人で過ごそうか?」
「はい……もし時間があるなら、少し買いたいものがあります」
「いいよ、行こうか」
お兄様の腕に手を掛けて、「こちらです」と、ストリートの両端にショップが並ぶデッキへと向かった。




