忘れられない旅の先にあるもの
私とフィリーオ兄様と奈月さんの3人は、また面白いものが見えるかもしれないということで、オープンデッキに戻った。
「この旅も終わりなんだよねー」
感慨深げに奈月さんがデッキの柵に両腕を投げ出した。
「いろいろ自分を見直せたし、本当に撮りたい写真が何かとか……将来の方向性を決めるキッカケにもなったし」
「一生忘れない旅だって思う」
ヤマトナデシコの清楚な奈月さんの眩しい笑顔がとてもキレイで、私の心臓が跳ねる。
「連れてきてくれて、ありがとう」
――すごくカワイイ!
ドキドキしたままフィリーオ兄様を見ると、いつも通りの普通の穏やかな表情で「お礼はルナに」とサラリとした感じで言う。
――ごめん、カナル……たぶんアナタの憧れていた理想の『大人の恋』の可能性は完全に消えた
大人の女性で一番可能性のあるお兄様の奈月さんに対する反応を見て、ココロの中で謝った。
「明日には陸上なんだよねー!」
背伸びをした奈月さんが名残惜しそうに海に向かって言うので、「そうですね」と私は頷く。
「お兄様と奈月さんと桐谷さんは、明日の夜、サバンナのツリーハウスに泊まるのですよね?」
残念ながら、明日の夕方から明後日まで、私だけフィリーオ兄様達と別行動となり、ロークスの邸宅に帰る。ツリーハウスの宿泊は危険が伴うということで、心配性の両親が良しとしなかったのだ。
「そうそう! 写真とか撮って見せてあげるから期待してて」
私に気を使ってくれてるみたいだ。私が子供だけら、一人だけそうなるのは仕方がないことなので、かえって申し訳ない気持ちだった。
「フィルは、サバンナにいる知り合いに会ってから、直接ツリーハウスに行くんだったっけ?」
――サバンナ在住の知り合い?
――そんな人、いない……ハズ
サバンナにいるロークスは私の家族だけだし、ロークスの関係者と会うなら私の耳にも少しは入るはずだ。それに、お兄様の友人は少ない。特殊な存在である『消えたもうひとつの人類』であるせいか、友人も厳選し、かなり慎重に交流していると私が感じるほどだ。
「お兄様の知り合いですか?」
「父に頼まれてね。先方に会って、渡すように言われてるんだ」
「おじ様に?」
「うん」
――サバンナにあるロークスの関係施設は……民間軍事施設
あそこに潜り込むのは、たとえロークスの血縁者であっても容易ではない。お兄様の行き先は分かったが、連れて行ってもらえないのは明らかだ。
――お兄様がそこに行く理由って、やっぱり研究に関係する用事……
――軍事施設内にも、もしかしたら研究施設があるってこと?
その可能性は充分考えられる。あらゆる研究施設に出入りしていれば、キメラに関する研究の情報も手に入る確立も上がる。研究は、いろんな分野で繋がっているから、キッカケさえ掴めれば芋づる式に情報を得られる。
――とにかく
――どうやってフィリーオ兄様について行こう
お兄様の生体データはロークス内でも秘匿だから、軍事施設内に入るためのセキュリティチェックは甘くなると推測される。
「そうですか、お疲れ様です」と、お兄様に笑顔で相づちをうちながら、密かに計画を練り始めた。




