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桐谷さんと写真2

「キャビンで見るより、ここで見る方が眺めがいいですね、お兄様」


 お兄様に話しかけると、「そうだね」と同意するように笑顔を見せてくれた。桐谷さん達のわりと間近で話したが、私達に気がついていないようだ。桐谷さん達が写真を撮るのに集中しているので、とても話しかけづらい。しばらくフィリーオ兄様と話すことにした。

 こういうのは慌てず、タイミングを見計らって切り出さないとダメだ。将来の進路の変更を促すのだから。そして、本人と説得者の2人だけでなく、客観的意見が言える第三者も話に加わると説得力が増すということを、この前、お父様から私は教わっている。

 お兄様の手をひっぱって、オープンデッキを歩き、いろんな方角から島々の景色を楽しむ。


「奈月、休憩するか?」


 桐谷さんの発した声が、風に流されて私達の耳に届き、お兄様と顔を見合わせた。目配せをするフィリーオ兄様を見て、頷く。きっと、お兄様は桐谷さん達を驚かそうとしているのだ。


 桐谷さんと奈月さんの背後に近づくフィリーオ兄様のすぐ後ろに私もいた。しかし、歩みを進めると思っていたのに、あと5歩くらいのところで急にフィリーオ兄様が立ち止まったため、お兄様の背中にぶつかってしまった。


「どうしました?」


「ルナ、あれは……」


 お兄様の背後から顔を出して、指し示した方角を見た。七色の光が島の影から少し見える。


 ――まさか、キメラ?


 お兄様はキメラなんて知らない方が良いに決まっている。前は夜だったから人工の光ということで誤魔化せたが、こんなに明るいと厳しいものがある。


 ――どうしよう!


 お兄様の片方の腕を抱き締め、顔を寄せた。しかし、フィリーオ兄様が思いもよらない言葉を発した。


「……天使の虹だ!」


 船が進むにつれて、島と島の間に見える青空に、ツイストした白い雲よりスゥーと伸びた七色の光が羽を広げているかのような虹が見えてきた。


「桐谷さん!」


 珍しい気象現象だ。慌てて私が呼び掛けると、桐谷さんが反応した。

 私達も含め、このオープンデッキにいた乗客が、天使の虹が見えなくなるまで静かに見守っている中、桐谷さんのシャッターを切る音が鳴り響く。


「いい瞬間に立ち会えたね?」


「そうですね」


 腕を絡ませたまま、お兄様と2人で微笑みあう。



 ――これが布石になる



 天使の虹をもう一度見上げた。


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