桐谷さんと写真1
お兄様の件は仮ではあるけど、手は打ったので、船旅の間は考えなくても良さそうだ。元凶に対処はしたが、油断は禁物のため、一応、桐谷さんのグリフォンフラグも潰しておいた方がいいと考えて、私は行動に出た。
キャビンからフィリーオ兄様と一緒に船頭側のデッキへ向かう。この時間、船が離島の間を通り抜けるので、桐谷さんと奈月さんの二人は望遠で離島に生息する動物をカメラで撮っているに違いない。
自分は写真の専門家ではないから、詳しいことは分からない。たしか、カナルの歴史書では、桐谷さんが撮影したフラグの写真以外は出てこなかったし、有名写真家というワケでもなかった。レンズの取り扱いをしている専門店をやっていて、趣味で写真を撮っている話だった気がする。
――たぶん、桐谷さんは気象現象の専門写真の方が合ってるんだ
この船のウェルカムパーティーがあった日、桐谷さんのキメラの光を捉えた写真は、分かりやすかったし、特徴をハッキリと正確に見た者へ伝えるものだった。もし公に発表すれば、学術的にも価値のある写真の1枚となるに違いない。
――あの写真……よくある気象現象ってことで処理してしまったのが惜しいぐらいだった
ただ、そういう才能があっても、運が悪く、本人や周りが気づかないままだったり、周りが気づいて助言をしても本人が聞き入れなければ埋もれていくだけだ。
――桐谷さんにとっても、お兄様と私にとっても、これが別れ道となる
デッキへの扉を開けてもらった途端に、強い海風が体に吹きつけた。お兄様が私の肩を抱いて通路に出ると、出来る限り私に風が当たらないようにと、先に歩いてくれた。
広いエリアには疎らだが、何人か乗客がいて、その中に桐谷さん達もいた。
ゆっくりと進む船のデッキから、緑豊かな離島が船の両側に見える大パノラマは圧巻で、桐谷さん達は一生懸命シャッターを切っている。私とフィリーオ兄様が近づいても気がついていない。
――どうか説得がうまくいきますように!
そう祈りながら、私は勝負に出た。




