表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/264

船上での「いとこ会」

 明日は一日中サロンとラウンジでテーブルマジックをし、明後日には船を降りてしまうカナルと話したかった私達は、泊まっているロイヤルスイートキャビンに招待し、急遽小さな『いとこ会』を開くことになった。


  ――できるだけカナルから情報を引き出さなければ!


 気合いを入れ、ソファに座るカナルと対面する位置に私も座った。


「ルナさんは、フィリーオ兄さんと仲がいいのですね」


 先手を打たれた。会話の主導権を握れなかったのが悔しい。そもそも巧みなトークで観客を引き寄せ、ネタがなんであるか分からないよう、人を欺くのを生業とするプロに対し、会話で挑むこと自体、無謀かもしれない。


「ええ、お兄様と私は相思相愛ですから」


「へ!?」


 カナルが「何を言ってるんですか」とでも言いたげな表情(かお)をしている。


「ルナさんの思い込みで、実は一方的な片思いってことではなく……?」


「失礼です! 馬に蹴られてみますか?」


「あ、いえ。すみません」


 私とカナルの会話を聞いて、フィリーオ兄様は笑いを噛み殺しているかのようだが、背けた体がプルプル震えている。


「お兄様も笑ってないで、ちゃんと言ってください」


「……ごめん。今、まともに話せない」


 なぜ、そんなに笑いのツボに入ってしまったのか不明だが、たいへん不本意だ。このままでは、私が一方的にフィリーオ兄様にまとわりついてる痛々しい子だと、カナルに誤解を与えてしまう。


「とにかく、フィリーオ兄様と一番仲が良いのは、誰がなんと言おうと私ですから」


 ムッと頬を膨らませて宣言すると、ますますフィリーオ兄様は「ルナ、カワイイ」とか言いながら、笑いの渦にハマってしまった。


 ――もういい、お兄様は放っておこう……あてにならない



「そうですか……そういえば、お二人の他にも一緒に旅をされてる方がいるのですか? ショーのとき、フィリーオ兄さんの隣に座ってたようですが」


「桐谷さんと奈月さんのことですか? フィリーオ兄様のオトモダチですよ」


「恋人ではなく?」


 ――ヒドイ! しつこく疑うのは、なんで!?


 そんなに私がフィリーオ兄様の恋人に相応しくないと思っているなら、失礼きわまりない。「違います!」と、むきになって力強く否定した。

 お兄様は、とうとう耐えられず、声に出して笑い始めた。ダメだ。本当にあてにならない。


「すみません。もう、その話はルナさんにとって地雷ってことがわかりましたので、これ以上は言わないです」


 カナルは、私の不機嫌ぶりを見て、アッサリと話題を変えた。


「ところで画家のナギラさんと話したのですが、フィリーオ兄さんと知り合いなんですよね?」


「あぁ、そうだね。ルナのことで御世話になったけど」


 声に出して笑ったのが良かったのか、ひとしきり笑ったフィリーオ兄様は、スッキリと落ち着いてカナルの質問に答えた。


「親しくないんですか?」


「僕はね。ルナの方が親しいんじゃないかな」


「えぇ、ナギラさんとは友人になりましたけど……何かありました?」


「今度のマジックショーで使う絵を彼女に依頼をしようかと思ってたので、依頼を受けて貰えるような方かどうか知りたいんですよ」


「そうですか。彼女のアトリエで50号のサイズの人物画を見たことがあるので、人物画なら依頼を受けて貰えると思いますよ?」


「良い情報をありがとうございます」


 カナルは御礼を言うと、「そろそろ明日の準備もあるので」と、ソファを立った。すると、お兄様が「このままだとルナの機嫌を損ねるから」と前置きをし、「ルナが言ってたことは本当だよ。一方的な片思いや、思い込みではないから」と、カナルに言ってくれた。


「……まさか、本当なんですね? 今回は今までと違いすぎて驚いてます」


「それはルナに誤解を与えるから、やめてくれないか? いろいろと噂をされてるかもしれないけど、今までもルナしかいないから」


「あぁ、すみません。そういう意味ではないです」


 カナルは焦ったように否定した。それにしても、失言が多すぎる気がする。そんなに私がフィリーオ兄様の相手であることに驚くことなのだろうか?

 気になることは、それだけじゃない。


 ――カナルが持っていた『片眼鏡の分散レンズ』


 ――明らかにキメラの存在を認識している行動


 ――それに、お兄様の恋人が誰なのかを気にしているし


 ――「今回は」という意味……


 そう、確かにカナルは『今回は』と言った。


 もしもカナルが転生者だとすると、何回か同じ歴史を繰り返し、必ず、ある起点で転生している可能性がある。そして、カナルは、その何度も繰り返される時の中で「お兄様の恋人を何回か見たことがある」という意味になる。


 キャビンのドアまで、カナルを見送るときに、試しに「今までの恋人は、全員大人ですか?」と小声で聞いてみた。

 カナルは、一瞬、目を大きく見開き、無言で頷く。


「……その話は次の機会に」


 そう私に言い残し、カナルは去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ