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見覚えのある人

 カンナルのイリュージョンマジックは、大好評で幕を閉じた。シアターからキャビンへ、フィリーオ兄様と戻っていると、不意に「ルナさん」と子供の声で呼び止められた。

 ロークスの特長の髪である――緩やかなウェーブにダークブラウンの短い髪の少年だ。


 ――どこかで会ったことがある……確か、お父様の遠い親戚の方の子だ!


「カナルさん、お久しぶりです」


 必死に脳内の人物名を検索し、顔から一致した名前を口にして微笑む。


「はい、この前の『ロークスいとこ会』の集まり以来ですよね」


 いとこ会は、お母様が提案して始めた集まりだ。ロークス家の血縁者のみが会員で、子供達だけのちょっとしたパーティーで楽しい。この会が始まって3年間、毎年誘ってみたのだが、お兄様は出席したことが一度もない。失礼にならない程度に他の必要最低限のパーティーには出席するみたいだけど、そういうのは基本的に苦手なようだ。だから、「いとこ会に出たことがないフィリーオ兄様」と「いとこ会しか出席していないカナル」は、お互いに会ったことがなかった。


「いつから、この船に? 気づきませんでした」


「今日からですよ、仕事です」


「お仕事?」


「ええ、実は……」


 まさかこんなところで偶然ロークスの血縁者に会うとは思わず、カナルと二人で会話がはずむ。


 が、


「ルナ、僕に紹介してもらえる?」


 私の隣に立つフィリーオ兄様が、なぜか神々しい微笑を浮かべながら会話に割って入ってきた。


「お兄様?」


「ん? なに?」


「……怒ってます?」


「いや? 僕も話したいから、このタイミングじゃないと会話に入りづらくなると思っただけだよ?」


 ――怒ってないなら、そのプレッシャーを与える笑顔を止めていただきたい


「失礼しました。フィリーオ兄さん、カナル・ライナーです」


 カナルが、助け船を出してくれた。「フィリーオ・ロークスです」と、二人が握手を交わす。


「僕も君のショーを観てたんだ。素晴らしかった」


「ありがとうございます」


 ――カナルの仕事って、ショービジネスなんだ


 そんな風に二人の会話を聞きながら思っていると、「ルナもショーを観て驚いてたよね?」と、お兄様から同意を求められた。


「え? カナルさんがスポンサーのショービジネスですか?」


「……もしかして、気がついてない?」


「何をですか?」


「彼がイリュージョニストのカンナル」


「…………」


 ――はい?

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