キメラ研究へのフラグ ケンタウロスα
単刀直入だったからスムーズにいかなかった。
そう結論づけて反省し、今度は外堀から攻めることにする。
あらたな決意を胸に、私はフィリーオ兄様が通うキャンパスに毎日のように赴くことにした。
学校には行ってないので融通がきき、こういう時は都合が良い。午前中に学習し、午後からは自由時間になるように調整してもらったのだ。
キャンパス内にある、緑のツタに囲まれたカフェテリアでロイヤルミルクティーを飲みながら、お兄様が通りかかるのを待つ。
寮に遊びに行ったときに、お兄様の友人に挨拶をしたので、もう顔見知りだ。カフェテリアに面した学生達が行き交う通りで、お兄様の友人が私に気がつくと笑顔で手を振ってくれるようになっていた。
「あら? あの方は……」
お兄様の友人ではないが、見たことがある。なんとも懐かしく感じる人だった。
彫りの深い濃い顔立ちに無精髭、筋肉質な長身の男の人がカフェテリアの前を通り過ぎていく。
――ケンタウロス!!
記憶にあるフィリーオ兄様の実験メモに、キメラ実験『ケンタウロス』のモデルになった絵画がある。その絵に描かれたケンタウロスの顔、上半身――つまり、馬のパーツ以外が、目の前を通り過ぎた男の人と同じだった。
私は急いでカフェテリアから出て、その男の人を後ろから追いかけた。
*****
ケンタウロスのモデルと思われる男の人は、キャンパス内を横切るポプラ並木を歩き続け、キャンパスの外に出てしまった。
そのまま大通り沿いを歩き、三叉路に出たところで、その一角に佇む小さな建物に、その人は入っていった。
――勢いでここまで来てしまったけど、迷子になりそう
探索が終わったら、「迎えに来て」とロークスに連絡するしかなさそうだ。連絡さえ入れれば私の位置情報を把握し、自宅から執事が迎えに来てくれる。あとで両親に報告されるので、あまり使いたくない方法だけど、フィリーオ兄様の命に関係することなので、やむを得ない。
気持ちを切り替えて、私は建物の裏側に回った。
――こんなこともあると思って、ヒミツ道具を入れておいて良かった!
トートバックから、いつもの折り畳み式踏み台を取り出した。
建物の窓からコッソリ中を覗くと、イーゼルに大きな描きかけのクロッキー画、絵の具で汚れた床、壁にはさまざまな人物の油絵が見えた。
扉の近くで画家らしき髪の長い女の人が、ケンタウロスのモデルの人と何か話している。後ろを向いたままで、女の人の顔がよく見えない。
――!!
話が終わったと思ったら、ケンタウロスのモデルの人が服を脱ぎ始めた。思わず見てはダメだと反射的に目を閉じる。
――そういえばケンタウロスは上半身、裸なんだわ!
出来る限り、絵のモデルの方は見ないようにし、イーゼルの前に立つ女の人だけを見た。画家の顔を見て、ケンタウロスフラグなのか確認したい。
ゲームシナリオだと、フィリーオのキメラ研究の実験メモ『ケンタウロス』を入手したプレーヤーは、その『ケンタウロス』の絵を頼りに、「悪魔に魂を売った芸術家」という汚名をきせられ、北の僻地に幽閉されるだけでなく、スポンサーや面倒を見てくれる人がいなくなり、芸術の道が閉ざされてしまった状態の画家ナギラに会いに行く。
この画家ナギラは、『フルフルちだまり☆』のゲーム序盤で戦闘メンバーに入る重要キャラなのだが、見つけるまでの謎解きがむずかしい。画家ナギラの作品を追って情報収集するのだが、アタリハズレがあり、ハズレだと『呪われた芸術品』と言われて既に燃やされているし、アタリだと『その手のコレクター』の間で高値で取引されていて更に追加情報がゲットできる。
「少しでも顔が見えないかしら?」
建物の構造と画材の配置が重なり、なかなか画家の顔を見ることができなかった。
そのうちに自由時間のタイムリミットが来てしまい、何も確信が持てる証拠がないまま帰ることになった。
――画家のナギラさんかどうか分かるまで、諦めない!
しばらく、大好きなお兄様に会わず、アトリエへ通うために自由時間を使うことになりそうだ。