分散レンズの片眼鏡
「あぁ、すみません」
カンナルは、ジャケットの胸ポケットがある部分をサッと片手で服の上から撫でると、指の間に鎖のついた片眼鏡が現れた。
「まだ出番ではないのに、妖精が皆さんに会いたくて出て来てしまったようですね」
キメラの光が集光する瞬間、カンナルは鎖の端を軸にヒュンッと片眼鏡を回転させた。片眼鏡のレンズが光の一点を通過すると、パアーンッと光がシアター内の四方八方へと散り、七色の光の粉雪が客席に降った。
――あの片眼鏡は、分散レンズ!?
会場内の割れるような拍手の中、鎖を持ち上げ、もう片方の手の平に片眼鏡を収めるカンナルの手元を凝視した。カンナルのもう一方の手がその上を通過しただけのように見えたが、手のひらにあったソレはなくなっていた。
――あの光がキメラだって知ってる?
――まさか……キメラ研究の関係者!?
――もしくは、私と同じ前世の記憶持ち?
カンナルが『何者であるか』という疑問で、頭の中がいっぱいになる。そんな状態の私とは無関係に、カンナルのステージショーは、何事もなかったかのように続行された。舞台に上がったが、私は上の空となり、何をやったか記憶に残らないうちにフィリーオ兄様の元に戻った。
「ルナ? 顔色が悪いけど、大丈夫?」
「ええ……」
私は心配するフィリーオ兄様の差し伸べられた手をとって、席に座り、胸元に寄り添いながら、「少し眩しい光を浴びて疲れただけです」と、小さな声で伝えた。




