シナリオにない真実
ボートで港に着くと、すぐに私達2人は大型客船に乗船した。ロイヤルスイートキャビンへ半日ぶりに入室し、私はソファーでくつろぐ。
ハッキリ言って、空腹で死にそうだ。紅茶だけでは、空腹を誤魔化せない。
「はぁ……」
フィリーオ兄様には一人で食事に行ってもらった。仮病を使ったので、昼食まで食べることができない。しかも、昼食も少量にしておかないと、仮病がバレてしまう危険性がある。こういう場合、どうやって耐えたらいいのだろうか。
――そうだ! 食べ物以外について考えればいいんだ
「食べ物以外のこと……食べ物以外のこと……」
独り言を繰り返せば繰り返すほど、空腹感が増す。
――ダメだ! 食べ物のことしか考えられない
フラフラとバルコニーに出て、港や周辺の景色を眺めて空腹を紛らわすことにした。
出港前なので、たくさんのヒトが行き交い、遺跡への森の前にあった市場よりも規模の大きな露店が並んでいて、港町は賑やかだ。
――ジンが言ってたことが、本当なら……
――これだけヒトがたくさんいるのに、お兄様と同じ人類は誰もいないんだ
昔から刷り込みをするかのように、空想動物やキメラが出てくるファンタジーな物語を私に勧めてきたフィリーオ兄様の気持ちを、なんとなく察することができた。
いつか私がお兄様の秘密を知ったときに怖がられないようにするためなのだろう。用意周到なフィリーオ兄様らしい行動だ。
そして、今後フィリーオ兄様がキメラの研究に携わる理由も、その特殊なバックボーンを考慮すると、ボンヤリだが見えてきた。
――だけど、お兄様が『消えたもうひとつの人類』って話、ゲームシナリオには出てこなかったハズ
――シナリオ的に重要じゃないからって、設定を削ったのかしら?
知らない情報があったからと言って、「ゲームシナリオから逸脱し始めている……というワケではない」ことは確かだ。
――あと、ジンが頼れるロークスの執事じゃないことも衝撃
頼れる味方どころかロークスと敵対している。ジンにお兄様の秘密の証拠を握られたら、すぐにジンの組織が動くに違いない。そして、お兄様は世間から隔離され、一生幽閉されてしまうことになるだろう。ロークス側でも、ジンが秘密を知っていると分かったら、間違いなく同じ結末になる。絶対にジンが知っていることは、両親はモチロンのこと、お兄様にも秘密だ。
――そして、ロークスが秘密裏に『人類の進化』なんていう研究をしていることも……
お兄様の生い立ちはロークスの中でも秘匿扱いで、どこから養子に来たかなんていう情報はない。だから、お兄様が世界のどこかにあるロークスの研究施設で産まれたという情報は、かなり有益で、ジンに感謝だ。
――こんなに知らないことだらけなんて……
この世界はホラグロゲームの『フルフルちだまり☆』と同じって、思ってたけど「本当にそうなのか」疑念が出てきた。
まるで前世の記憶は、これから起こることについて、大まかな流れを、うわべだけ掬っただけのように感じる。
――もしも、あのゲームが、ゲームではなく、未来から送られてきた歴史書だったら?
――なんてことは……アリエナイ
「空腹のせいでイヤな妄想をした」と、その考えを振り払った。




