お兄様からのプレゼント
――絶対、怒ってる……よね?
シャワーをして服を着た後、私は恐る恐るベッドルームを覗いた。
「ルナ」
お兄様に速攻で見つかり、諦めて部屋に入った。「ここに座って」と、ベッドに座るフィリーオ兄様が指した場所――お兄様の隣から、だいぶ離れたベッドの端に座ろうとした。すると、私の腰に腕を回して引き寄せ、「僕の膝の上で話し合いする方がいいのかな?」と恐ろしいことを言われたので、「いいえ」と、大人しく指定の場所に座った。近距離での、お説教ほどイヤなモノはない。
「この旅行中、誰にも行先を言わないで、単独行動するのは2回目なんだけど、何かに言うことは?」
「……何もナイデス」
「ルナ、せめて僕達に位置情報がわかるようにスマホぐらい持って行ってくれないかな」
「はい」
「……あんまり、こういうことは、やりたくなかったんだけど」
そう言って、フィリーオ兄様はベッドのサイドテーブルに置いた長方形の平らな箱を手にした。
「お兄様、それは?」
「スマホじゃない子供用のウェアラブル端末」
「それって……自分の状況を上手く言えない5歳ぐらいまでの小さい子や、スマホを落としたりなくしたりするウッカリ屋な子に持たせるモノですか?」
「うん」
「イヤです! ウッカリさんと言われてるようなもんじゃないですか! やっていたら一目で分かりますし、恥ずかしいデス」
同い年ぐらいの親しい子に会ったら、なんで子供用のスマホじゃないのか絶対聞かれると思う。10歳であるにも関わらず、誰にも言わずに独りで行動したのはマズイかもしれないが、幾らなんでもそれはない。
「お兄様、今度はちゃんとスマホを持っていきますから」
「2回目……だよね?」
「……うぅ、ハイ」
痛いところを突かれる。一回だけなら、言い分が通ったかもしれないが、繰り返してしまっている。しかも、実は旅行中だけでなく、普段のときも何回かやっている。
「一応、他のヒトが見ても分からないようにはなってる」
お兄様が手渡してくれた箱を開けると、私の髪の色と同じダークブラウンのベルベットリボンに、プラチナの複雑な模様の細工が施されたペンダントヘッドがついているチョーカーが入っていた。
「これ、本当にウェアラブル端末ですか?」
「うん」
お兄様は自分の腕時計を操作し、モニタリング画面を見せてくれた。確かに位置情報、周辺環境の温度や湿度、行動しているか静止状態かの確認ができる。
「本当……ですね」
「過保護すぎってルナに嫌われたくないから、これを渡すのは躊躇してたんだけど、さすがに2回も同じことが起こると……ね?」
かなり心配させてしまったのかもしれない。
それにしても、私がお兄様のことを嫌うわけないのに、変なことを言う。例え私と違う『消えたもうひとつの人類』だとしても、私の大好きなお兄様であることには変わらないんだから。
「はい、それで安心できるのなら。フィリーオ兄様、つけて下さい」
手触りの良いチョーカーを箱から出して、お兄様の手を取り、渡した。チョーカーが着けやすいように、お兄様に背を向け、髪を前に流して首筋を出す。
「わかった」
チョーカーを持ったお兄様の両手が、私の首をなぞり、パチンという音を立てて金具を留めた。
「ありがとうございます」
「すごく心配した……愛してるよ、ルナ」
その言葉と同時に温かい吐息が耳の後ろを掠め、フィリーオ兄様の唇が、チョーカーをしている私の首筋に押し当てられた。




