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ジンとの交渉

 こういう場合、まずは交渉だ。交渉がダメになった場合に「よし、ならば剣を持て」となり、徹底抗戦に出るのが世の常である。

 ここは、前世の記憶――ゲーム『フルフルちだまり☆』で得られたジンの情報を切り札に利用するしかない。より多くの切り札となる情報を持っていることが勝負の勝敗を分けるのだから。


「ヒュームさん、もしアナタの本業が諜報員だとしたら、とんだマヌケですね」


「黙ろうか、ロークスのお嬢さん」


「痛い!」


 ジンが腕の拘束を強めたため、痛みが増した。


「子供だからって容赦はしない主義なんだ」


「……望むところです! このままお兄様の情報を渡したら、アナタ、死にますよ?」


「……それが、どうした?」


「自分が死んでも構わないって思ってるのですね?」


「…………」


「なら、アナタの子供は?」


「は? ロークスの嬢さん、何を言ってる?」


 さすが諜報員だ。これしきのことで動揺しない。


「ルッコラが大好きなアナタの子供のことです」


「…………」


「重要じゃない情報を相手に渡して、肝心な情報はその子に預け、アナタが死んでも子供の安全は確保できるように対策したつもりになってますが、交渉術の訓練も積んでない、護身術も習得していない普通の子供が切り札を持っていたって、何も出来ずに殺されるだけですよ?」


 『フルフルちだまり☆』では、時間制限つきの「ジンのダイイングメッセージ」を解き、ジンの子供の居場所を突き止める。居場所や謎解きは、毎回ランダムでプレイする度に変わるうえ、「謎解きパターン、一体いくつあるんだ!?」とプレーヤーを苦しませていた。

 さらにミッションクリアの場合、ジンの子供に会えるのが、ルッコラのキメラによって致命傷を負わされ、息絶える瞬間だ。

「せめてジンの子供だけでも助けたい」と思ったプレーヤーが、襲おうとしているキメラを遠距離で仕留めても、結果は変わらないという話だった。


「私なら、アナタの子供を守れます。そして、アナタは自由に動ける」


「裏切れって?」


「別に裏切る必要はないです。どうせロークスの執事になるつもりですよね? それが早まっただけです」


「ロークスは……子供にまで交渉術を教えてるのか?」


「さぁ? どうでしょうか」


「さすがロークスだな。どちらにしても、こちらの分が悪いことがわかった。その様子だと、いろんなことを把握している感じだな」


 ハッタリが上手くいった。ニッコリ笑って、何も答えず、静かに沈黙を貫いた。この一連の行動が、この場合一番効果があるハズだ。


 しばらく海のさざ波だけが響く、静寂な時が流れた後、私を締め付けるジンの腕が緩められた。


「ヒューム……さん?」


「好きにしろ、子供の保護は依頼範囲外だ」


「ロークスがいろんなことを知っているという情報を提供したから……つまり、情報料の代わりに解放してくださるのですね?」


「かわいくない子供だ」


 図星だったらしい。ジンが渋い顔をした。


「それでは失礼します」


 挨拶をして植栽をかき分けると、腕を組んで、目の笑ってない神々しい笑顔のフィリーオ兄様が白い砂浜に立っていた。


「あ……」


「ルナ、分かってるよね?」


「……はい」


 お兄様に腕を掴まれ、そのまま私はヴィラのシャワールームに放り込まれたのだった。

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