秘密と保護という名の拉致
もう少し聞いていたい。
ジンの話は、明らかにココにいる利用者についての話だ。それに、私達が使っている客室担当の執事なので、私達に関することである可能性がある。
――それにしても
このリゾートは会員制で、セキュリティーには定評がある。だが、評判と実情は違ったようだ。仕事で知った顧客の情報をスタッフ同士の内輪といえども、提供するサービスと関係ない個人情報を漏らすのは言語道断だ。
――知ったからには、二度とココは使わない方が良いわね
「確認までは出来たが、証拠までは挙げられなかった。中継ぎを入れらて……あぁ、『消えたもう1つの人類』のデータはある。骨格をスキャンしたら、照会して確認するよ」
ジンと話している相手は、声が小さすぎて波の音と重なり、まったく聞こえなかった。ジンの声は、かろうじて聞こえる程度で、かなり集中力が必要だ。
――中継ぎ……消えたもうひとつの人類?
つい最近勉強した単語が出てきた。記憶を探る。
「あぁ、証拠を掴んだら、すぐに政府の管理下に置かないとな。ロークスの人類の進化の研究になんて付き合ってられないからな」
『ロークスの人類の進化の研究』
ジンの紡いだ単語が頭の中にグルグルと回る。
「つまり……お兄様は……『消えたもうひとつの人類』が進化したニンゲン?」
小さく呟いてしまったのが不味かった。ザッと、砂浜を蹴る音と共に植栽から人の手が出てきて、私の体が引っ張られた。
「ロークスのご令嬢……こんなに朝早くに何のご用でしょうか?」
ジンがニヤリと不敵な笑顔を浮かべた。ジンの隣にいるヴィラの制服を着た女の人が、インカムで「ロークスのお嬢様を保護しました」と、どこかに連絡を入れる。
「は、離して!」
「悪いが、旅はココで終わりだ。お嬢様は、ロークスの邸宅に帰ってもらう」
「イヤよ! 一生、家に閉じ込めらちゃう!」
「……こんな状況で自分がどうなるのか分かってるなんて、賢明な子だけに残念だ」
ジンが、暴れる私を押さえつけながら、インカムで連絡をとる女の人に視線を送った。
「手に負えないので、応援をお願いします」
――これ以上、人が増えたら、ココから脱出不可能になる!
私は目を閉じて、作戦を絞り出すよう集中した。




