奈月さんと写真
夕食後、私と奈月さんは、プライベートビーチに面した解放感溢れるジャグジーのある部屋にいた。
楕円形のジャグジーには、赤やピンク色の花びらが、ユラユラと浮かぶ。ジャグジーが埋まっている白いタイルの縁に手をかけて、覗くと、リラックスできそうな良い香りがする。
「瑠梛さん、一緒に入ろう?」
奈月さんの声に「はい」と返事をして、振り返った私は、目に入った奈月さんの姿に衝撃を受け、服を脱ごうとした手が止まる。
「奈月さん……着痩せするタイプなんですね」
「え?」
「その……胸が」
奈月さんは、可愛いフンワリとした雰囲気で、着物がよく似合うヤマトナデシコのイメージが強かったので、意外だった。
「あー、うん、よく言われるんだけど、胸が大きいと大変なのよねー」
「そうなんですか?」
「うつ伏せで写真を撮るときが、たまにあるんだけど……そういう時、邪魔なのよ」
写真撮影を基準に考える奈月さんらしい答えだ。思わずフフッと笑ってしまった。
「……奈月さんって、本当にカメラが好きなんですね」
「そりゃもう! 『私の人生そのもの』だから」
「人生……そのもの……ですか?」
奈月さんは、可愛らしく照れくさそうに微笑んだ。
「じゃあ、お先に!」
恥ずかしいセリフを言ってしまったと思っているのか、奈月さんの頬が赤くなっている。チュニックワンピースの水着になった奈月さんは、そそくさとジャグジーに入ってしまった。
――人生そのもの……か
奈月さんの言葉を繰り返す。お兄様の命と関わらなければ、全面的に応援するのだが、今の状況では素直に応援する気になれない。
「奈月さんは、空を飛んでいるか、飛び立つ瞬間の鳥の写真が好きなんですか?」
子供らしいフリルワンピースの水着に着替えた私は、奈月さんの側に行くと、タイル貼りの縁に座り、爪先だけジャグジーに入れた。
「大好き。『一生懸命、生きてる』って感じられる瞬間を撮り続けたいって思ってるから」
「私には分からないです。鳥が飛んでいるだけより、獲物を狙っているときや、獲物を食べているときの方が……よほど『生きてる』って感じじゃないですか?」
「…………」
奈月さんが私を見て、目を丸くしている。そんなに変なこと言ってしまったか不安になった。
「そうよ!」
ザバンッと、急に奈月さんがジャグジーから立ち上がる。
「私の写真に足りないモノ……獲物をくわえながら飛び立つ鳥の方が、すっごぉーくイイ!!」
座ったままポカンと見上げる私がココにいることを忘れたかのように、奈月さんは握り拳で仁王立ちになって、ビーチに向かって力強く言い放った。
「あの……奈月さん?」
奈月さんの背中に声をかけたが、返事がない。口元に手をあて、ブツブツと写真の構図について独り言を始める奈月さんに、何を言ってもダメだと悟った私は、ジャグジーに入り、海を見ながら花びらで遊んでいた。
*****
「瑠梛さん、ありがとう! 獲物を食べてるところって、どうしてもグロくなるから躊躇してたんだけど、吹っ切れたわ! 『生きていること』を表現するには、やっぱり必要って分かったわ。グロくなるか、そうならないかは、結局、私のセンスと技術次第なのよね」
奈月さんより先にジャグジーから上がり、部屋着に着替えていると、感謝された。どうやらスランプだったらしい。
――これで、グリフォンフラグの片方は消滅




