◇46 どんなに私が悪いことをしても
カナルと共にLISS内の一室に入る。机と椅子の他は何もない部屋だ。それは、LISUでフィリーオ兄様がプエルマに聞き取りした時と同じような感じだった。お兄様の他にもLISSのヒトがいて、誘拐されたときにいたブレア・ライナーの古城でのことや別病棟で端末を発見した経緯まで、いろいろと聞かれる。そして、それらの情報をまとめ、極秘扱いでジンに渡すこととなった。
「カナルさん、あの島にあった機械の封印のことですが……」
報告書が仕上がるまで、私とカナルは何もすることがない。この部屋で、ひたすら待つのが苦痛になり、カナルにそう話しかけた。
「ボクがかけた封印ですか? シャロン・ライナーの元に機械の中身が全て転送された時点で解術されましたよ」
「そうですか。では、もうループすることはないのですね」
「おそらく、そうなりますね。それがボクの封印を解く条件にしましたから」
カナルが長く息を吐く。
「永かった……ですか?」
「そうですね……。でも、もう繰り返されないということは……」
「『やり直すことができない』……ですよね?」
カナルの言葉に続けて私がそんな風に言うと、固い表情で頷いた。
*****
報告書が出来上がったのは、とうに日が沈み、辺りが真っ暗になった頃だった。夜遅いため、変装姿から普段の姿に戻ったお兄様が、当然のように私をLISSに1番近い家――サバンナ・ロークスに送ってくれた。
「お兄様、まだ私のこと、好きでいてくれますか?」
眠る準備を整えた私は、自室のベッドの中に入り、帰ろうとするフィリーオ兄様を引き留めた。
「好きだよ」
辺りが薄暗くて、フィリーオ兄様の表情が見えない。欲しい言葉をもらったハズなのに、淡々と起伏のない口調で言われ、さらに不安が増し、悲しくなる。
「どうした? 眠れないのか?」
肯定すると、お兄様はベッドの側に跪き、横になる私の視線に合わせて髪を撫でてくれた。その手つきの優しさに少しホッとして、静かに目を閉じる。
リネアの記憶の解放は『悪いことかもしれない』と、どこかで思っていたけれど、あまり深く考えていなかった。1人の人間の人生をめちゃくちゃにしてしまうほどの大事になるなんて。でも、悪いことは事の大きさの大小関わらず、『悪いこと』に変わりはない。お兄様はワザと私がやったことを知っていて……、こんな悪いことをする私に幻滅し、嫌いになってしまうんじゃないかと思っていたのに、なぜか今も隣にいてくれる。もしかしたら単に私がお兄様の『親戚だから』っていう理由で側にいるだけで、ココロは既に私から離れているかもしれない。気弱になって、そうなのかどうか確かめたくなる。
――ベッドでキスはダメって言われたけれど
お兄様の髪がかかる首筋を指先で撫でたあと、その指で唇の輪郭をなぞる。
「ルナ……? もしかして誘ってる?」
お兄様の大きくてヒンヤリした手が唇に触れていた私の指を包んだ。
「いいえ? お兄様と『ベッドの中でキスはしない』と約束しましたから」
手を取り、私の指先を唇に引き寄せて口づけたまま何も言わないフィリーオ兄様に、「約束をなかったことにしてくださればいいのに」と小さく呟く。
「撤回しろと?」
お兄様の耳にしっかりとその呟きは聞こえいた。
「はい。私……悪い子ですか?」
「あぁ、本当に」
私らしくない自虐的な言葉を口にしたことが可笑しくて、クスリと笑った私は、そう言うお兄様の唇にそっと唇を重ね合わせる。すると堰を切ったように何度もお兄様が深いキスをしてきた。それは……まるで暗い淀みに沈む私のココロへと引きずり込まれていくようで――、どんなに悪いことをしたとしても、私から逃れられないほど愛してくれると感じられるものだった。
番外編 囚われた今は亡き少女を最後まで読んでいただき、
ありがとうございます。
次回、番外編までしばらくお待ちください。
<追記>
別作品情報です。
なろうに投稿した小説「科学の極み!」のボイスドラマをやります。
自作アニメーション動画をYouTubeにて公開中。
良かったら見てください。
https://youtu.be/X8941KEyyWg
ボイスドラマ「科学の極み!」VR編
https://youtu.be/T712MOIl_Ak
ボイスドラマ「科学の極み!」キリュウ編




