◇45 繋がり
リネアの思考が入ったことで目的を失ったシャロン・ライナーは、ジンに連れられて別病棟を出た。
「フィリーオ・ロークス、アナタさえいなければ私は帰る場所があった」
病院の前に停めた警察車両に向かっていたが、突然シャロン・ライナーの歩みが止まる。
「こんなことにもならなかったハズだったんだ。今頃、私はシャロン・ロークスとして生き、まったく違う人生になっていた。そして、アナタはブレアの子として生きていた――いや、殺されていたハズだ……『ヒトならざる者』」
お兄様にぶつけたシャロン・ライナーの恨み言を聞き、その場にいた誰もが息を殺した。
――ヒドイ! すべてをお兄様のせいにしてる
「シャロン・ライナーさん、それは……」
ムッとして『筋違いです』と言おうとしたけれど、お兄様に「ルナ」と呼ばれ、抗議する予定が有無を言わさず中断させられてしまった。
「……あいにく、物心ついた頃から僕の父はレンだけだった。他の記憶はない」
無表情でお兄様がそう言葉を返す。お兄様もシャロン・ライナーもロークスの実験体で、ほんの少し歯車が違っただけだった。想像できないけれど、お兄様が今のシャロン・ライナーのようにリネアの両親を殺してリングを奪っていたかもしれない……? でも、カナルが何度も見てきたループの中で、そういうことは起こり得ないことを私は知っているし、お兄様の性格からすると、自分に関わりがあると知らなかったとしても、シャロン・ライナーのようにむやみにヒトを殺すなんてことはないと思う。他人に知られることなく、冷静かつ確実に目的を遂行するヒトだから、リネアのリングだけを回収し、他には手を出さないと思う。
「あぁ、いた! お転婆なお姫さまは一体どこまで散歩に行ってたのよ? 心配してたんだから。それに私だけ車で1時間も留守番って、納得いかないわね」
車のボンネットに座っていたナギラさんが立ち、呆れ顔で言う。その声に真っ先に反応したのは、シャロン・ライナーだった。じっとナギラさんを眺めていたかと思うと、顔を歪ませ、唇をきつく引き結び、パッと伏せた。
確か、リネアはナギラさんの親戚だ。帰還の術式に使われたリネアの記憶にナギラさんの記憶もあったようで、シャロン・ライナーの様子を見て私はそう確信した。
――生き残った唯一の親しいヒトは、ナギラさんだけなんだ
応援の緊急車両が次々とサイレンを鳴らして敷地に慌ただしく入ってくる中、自分がやったことの重さと残酷さでココロが苦しくなっていった。




