◇43 リネアの記憶の解放2
お兄様に教えていただいたリネアのデータを開く。そして、生体スキャンの準備もしておく。今もシャロン・ライナーが身につけているリネアのリングと連動している状態だから、近くに行ってスキャンさえできれば、いっきに色んなことが解決できる。次にリングを身につけたシャロン・ライナーに会える保証はない。どうしてもこのチャンスを逃したくなかった。
「お兄様、実はカナルさんがカンファレンスルームでシャロン・ライナーさんに捕まってるんです」
「カナルもココにいるのか?」
「はい。私と一緒に探し物をしていて、シャロン・ライナーさんに会ってしまって……。カナルさんが私だけ逃がしてくれたのです。お兄様、私、心配ですのでカナルさんの所へ行って見てきます」
お兄様に途中の詳細を省略して話した。早くしないと、拘束されたシャロン・ライナーがジンに連れ去られてしまう。ジンの組織の管理下に入ったら、リネアの思考データを戻せなくなる。
「カナルなら捕まっても1人で脱出できるだろ。心配ないよ」
それは困る! お兄様に本当の目的を言うことができないので、どう言い訳をすればいいか困窮した。私が今からやろうとしていることは人体実験とも言える。世の中のルールでは、やっちゃいけないことだ。事故ということにするためにも誰にも知らてはならない。そして、これは子供の私にしかできないことでもある。LISS所属のお兄様には絶対に話せないし、カナルの所へは行けないし、八方塞がりになった。
――こうなったら、強行するしかない
「お兄様は冷たいです!」
マスターキーですぐ横の扉を解除して中に入ろうとしたら、お兄様が私の背の届かない位置で扉を押さえつけていて入れない。ヒドイ妨害だ。
「やめてくださいませんか?」
「焦ると判断を誤る。中で何があった?」
「……何もないです」
お兄様の私を見つめる視線が痛い。顔を反らして意味深に聞こえるような曖昧な答え方をした。
「シャロン・ライナーはLISU爆破事件と今回の大量殺戮事件の容疑者だ。ロークスは何も手出しできない」
つまり、お兄様は私に『何も行動するな』と言いたいんだ。頼まれたことも見てみないフリをするべきなのかもしれない。
「私は……アリマスさんに頼まれたことをやりたいだけです。囚われているリネアさんを囲いから出すために行かないといけません。そして、シャロン・ライナーさんがリネアさんを救出する鍵を持っています」
「アリマス医院長の……」
お兄様はしばらく考え込み、それから押さえていた手を扉から離し、私に「タイムリミットは、シャロン・ライナーがジンに捕まるまでだ。シャロン・ライナーが捕まり次第、僕達はココから直ちに出て行かなきゃいけない。その後、この病院は閉鎖される」と言ってくれた。
「はい、わかりました」
私は悪い子だ。お兄様を騙している事実がココロに重くのしかかる。罪悪感をココロの底に沈め、そう返事をした。お兄様と私は非常口からそのままカンファレンスルームへと走った。




