触れられたくない核心と和食
ひとまずフィリーオ兄様とジンとの接触については解決しそうなので、気持ちに余裕が生まれ、夕食の時間まで部屋から出ずに落ち着いて過ごす。
このまま普通に過ごし、何事もなく、このリゾートを離れて船に戻れば目標達成だ。
「お兄様、そろそろ夕食の時間だから、迎えの車が来てしまいますよ?」
籐のイスに深く座り、寝ているフィリーオ兄様の髪を耳にかけ、隠れていた耳の近くで優しく囁いた。
このリゾートの敷地は広いため、基本的にリムジンでの移動となる。移動時間がかかるので、早めに迎えが来るだろう。
「もう、そんな時間?」
「はい、そうです」
「ルナ、夕食はケータリングを頼んだんだ」
「そうなんですか?」
「そろそろ、みんなサッパリしたものを食べたいんじゃないかと思ったからね」
「もしかして、和食ですか?」
フィリーオ兄様が頷き、「分かりやすい」と、目を細めて笑った。
「久しぶりなので、嬉しいです」
和食は、私のお母様の故郷の味である。もちろん桐谷さんや奈月さんの国の味だから、私だけでなく二人も知ったら喜ぶと思う。
「お兄様、ありがとうございます」
嬉しくて、そわそわしてしまう。和食はバリエーションがあるから、どんな料理が出てくるか楽しみだ。
「ここのところ思い詰めている様子だったからね。これで少しは気持ちが晴れたかな?」
「え?」
「何ヵ月か前からそうだろ? 何かに追われるかのように行動したかと思えば、深刻に思い詰めて考え事をしてることが多くなった」
お兄様が私の髪を撫でながら言い放った言葉が、鋭く核心をついていて驚く。「持ち上げておいて落とす」とは、まさにこの事だ。嬉しい気分が、しぼんでいった。
「あ……あの」
どうやって誤魔化せばいいか分からず、困ってしまう。急に追いつめられ、臨機応変に対応できず、ピンチだ。
「フィリーオ兄様……」
登山用の服から着替えたワンピースのスカートを握りしめ、沈黙を貫いた。
「……今はいいよ、ルナが話す気になるまで待つから」
クスリと笑いながら私の髪を撫でつつ、指を差し入れて一房すくう。そして、お兄様の唇が手のひらに広がる私の髪に重なった。
――ドキドキしすぎて、目眩が……
まるで猫に追いつめられたネズミのような気分だ。上手く隠して立ち回っていたと思っていたのに、お兄様は「私が何か隠していることは分かってる」ってことだ。ただ、見逃してあげてるだけだと言われた。
――いつかは言わなきゃダメなのかな?
――でも、『フルフルちだまり☆』の話をして、頭おかしいって思われたら悲しい
私は、お兄様の肩に頬を寄せ、悲しい想いをココロの奥に閉じ込めた。
*****
一式全てを持って来た和食ケータリングのスタッフ数名が、あっという間にセッティングを終え、板前さんが料理を始めた。
組み立てられたダイニングテーブルに飾ってある小物は和物でまとめられている。
「今日はサッパリしたものが良いとのことでしたので、ハモ料理にしました」
説明と共に、一皿ずつ和紙のランチョマットの上に置かれていった。
奥の小鉢には、トロリとしたツヤツヤな飴色のあんかけがハモの揚げ出しを覆い、その上にはタップリと白髪ネギがのっている。
右手前にあるお椀のフタを開けると、ミツバとダシの香りが漂う。中には、湯引きし、白い華のように咲いたハモとミツバがあった。
――和食って安心するし、心が和む
桐谷さんや奈月さんも、表情がほころび、「身体に染み込むー!」と、嬉しそうだ。
「お兄様、美味しいです。気を使っていただいて、ありがとうございます」
私が目線を合わせて笑顔で言うと、お兄様は照れたように目を反らし、「どういたしまして」と小声で言った。
和モノ布教企画にあやかってみました!
和モノだと、なぜか和食登場になってしまう……




