◇37 見つけた電子端末
以前にアリマスさんの案内で入ったキメラの培養施設がある部屋の隣に、小さな扉があった。扉をマスターキーと暗証番号で開けると、動力室だった。
「ルナさん、ココではなさそうですね」
「ええ。でも、部屋の扉はココと隣しかないです」
動力源となっている機械の隙間を通り、部屋の奥へと歩く。進んだ先は壁ではなく、新たな扉がそこにあった。
「これは……いかにも怪しいですね。この部屋の奥に重要なデータが保管されてるなら、たとえ査察が入ったとしても事故を装おって動力室を爆破させれば、証拠隠滅ができる配置になってます」
部屋いっぱいに配置された動力源の機械と、大人が横歩きしないと進めないぐらいの幅しかない通路を見て、カナルがそう言った。
――緊急時になったら自動的に封鎖されて、自爆エリアになるかもしれない
用が済んだら、すぐに地上へ上がらないとダメだ。奥の扉を開けるため、急いでカードキーを使った。
誰も立ち入っていなかったらしく、埃っぽい臭いがする。でも、湿気はなく、室温も一定だった。奥行きが2メーターぐらいしかない部屋の片隅には、書類保管用のキャビネットが置いてあり、その上にレトロな電気スタンドがあった。その電気スタンドも埃をかぶっている。
「灯りはコレしかないようです」
スイッチを入れた途端にバチッと火花が散り、ショートした。他に使えそうな灯りがない。この部屋は特に暗いので、この明るさでは探し物をするのに時間がかかってしまいそうだ。
「灯りなら、ボクが小型ペンライトを持ってますよ」
カナルのペンライトで、引き出したキャビネットの中身を照らしてもらいながら探すことにした。手早くファイルを1つ1つ見ていく。この場にフィリーオ兄様がいたら、こんな手間のかかるような事はしないと思う。しかし私とカナルの知識では地道な探し方しか思いつかなかった。
「他のファイルより……重い?」
「ルナさん、どうしました?」
キャビネットの1番奥に貼りついていたのをバリッと剥がし、手にしたファイルは他のと比べて重たかった。
「このファイルだけ、何か入っているみたいです」
カナルにファイルを渡した。
「本当だ……硬質な板?」
「中を見てみます」
片手で持っているカナルよりファイルを受け取り、ロック金具を外して中を開いた。
――これは……
「電子端末ですね」
「お兄様が使ってる端末と同じタイプです」
お兄様はロークスの軍事特殊車両であるハイブリッドバイクと連動させて使っている。私は恐る恐る電源をオンにした。システムが起動する。画面に浮かんだのはロークスのロゴだった。ロゴが消えると乳白色となり、画面がロックされた状態となった。
「中のデータが確認できませんが、ロークスのシステムが使われている端末ですので、持ち出した方が良さそうです」
「そうですね。では、ボクが預かっておきますか?」
「はい、お願いします」
同じファイルにファイリングされた物がないか中を調べてみたけれど、紙媒体やチップなどはなかった。私達は再度すべてのファイルを確認してみたが、キメラの培養管理記録しかなく、リネアの手術記録はなかった。
「ないですね。ルナさん、隣の部屋を探しませんか?」
「いえ。以前、培養施設の方へはフィリーオ兄様と一緒に入りましたが、他に部屋はありませんでしたし、キャビネットや本棚はなかったです。それに、ココに来てもう20分ぐらいになりますから、ココ以外の別の場所を探した方がいいです」
首を横に振り、カナルの提案を却下した。カナルも同意してくれたので、私達2人は小部屋から動力室へ抜け、エレベーターに乗る。結局、事務の男のヒトが言っていたリネアの手術記録はなかった。地下施設になければ、あとは資料室? 上昇するエレベーターの中、お兄様やアリマスさん達と一緒にココに来た時の記憶を掘り返していた。




